セントラル・ステーション(1998年)
孤独な中年女性と少年の絆を探す旅
驚きと感動のブラジル製ヒューマンドラマ
ベルリン国際映画祭で金熊賞(最優秀作品賞)、アメリカのゴールデングローブ賞で最優秀外国語映画賞を受賞するなど、高い評価を受けたブラジル映画。
リオデジャネイロの中央駅(セントラル・ステーション)で代筆業を営む中年女性と、孤独な少年との心の交流を描いた、笑と涙のヒューマンドラマです。
*****
【ストーリー】
元教師のドーラ(フェルナンダ・モンテネグロ)はリオデジャネイロの中央駅で、文字を書けない人々のために手紙を代筆して日銭を稼いでいました。仕事を終えて家へ帰ったドーラは友人のイレーラ(マリリア・ペーラ)を呼び寄せて、客たちの選別をするのが日課。手紙を出すか、出さないか。ドーラのタンスの引き出しには、投函されなかった客たちの手紙がたくさん溜まっていました。
ある日、若い母親アンナがドーラに代筆を依頼します。長い間会っていない夫への思いを込めて手紙の内容を伝えるアンナに対して、仏頂面のドーラからは手紙を投函しない雰囲気が伺えます。
ところが、依頼を終えたアンナが帰る途中、交通事故で亡くなってしまいます。駅にはアンナの9歳の息子ジョズエ(ヴィニシウス・ジ・オリヴェイラ)が1人残されました。それを見ていたドーラは彼を自宅へ連れ帰ります。
客たちの手紙を投函しないなど、性格キツめのドーラ。ジョズエを連れ帰ったのも、かわいそうに思ったのかと思いきや、怪しげな男性からお金をもらって、ジョズエを養子斡旋施設へ送り届けるためでした。
ところが、そこが臓器売買組織だと知ったドーラは慌てて、ジョズエを連れ戻します。そして、仕方がないので、アンナの手紙を頼りに、ジョズエを父親の元へ送り届けることにするのです。
*****
描かれるのは、ドーラとジョズエのロードムービー。性格キツめのドーラは子どものジョズエにも迷惑そうに毒づきますが、ジョズエもドーラに劣らず、ズケズケ言うタイプ。怖そうなオバさんと、小生意気な子どもとの容赦ない舌戦に思わず笑ってしまいます。
衝突ばかりの2人ですが、ドーラはジョズエを放っておけず、ジョズエもドーラを頼りにしています。でも、2人が本音を口に出さないのは、求める人に忘れ去られる哀しみを知っているから。そんな哀しみを味わうくらいなら、人を求めずに距離を保つ方がいい。ドーラが屈折した理由には切ない過去の経験があったのです。
そんな孤独な2人が波乱続きの道中での経験を通し、次第に打ち解けていきます。
終盤、もしジョズエの父親が見つからなければ、独り身のドーラと一緒に仲良く暮らせばいいのでは? とさえ思うほどなのですが、ドーラはどんな決断を下すのでしょうか。ラストシーンは必見です。私は温かい涙がこぼれました。
ドーラを演じたフェルナンダ・モンテネグロはベルリン国際映画祭で銀熊賞(女優賞)に輝きました。
時代設定はわかりませんが、代筆業があるほど読み書きのできない人がいることや、ラテン系とも言うべき、ドーラとジョズエの気性の激しすぎるキャラクター、そして、旅の途中に見える岩肌むき出しのブラジルの荒野など、日本の裏側にあるブラジルのワイルドな現実に驚かされます。
荒々しさの中に繊細さを秘めた、不思議な味わいのあるブラジル映画です。
ビッグ・フィッシュ(2003)
豊かな人生を送りたい人は必見!
鬼才ティム・バートン監督の心温まるファンタジー
2003年に公開されたファンタジー映画『ビッグ・フィッシュ』は、人を喜ばせようとする優しい気持ちに満ち溢れた作品。ファンタジックな映像の数々に、映画という媒体の素晴らしさが改めて分かります。
原作は米国でベストセラーを記録したダニエル・ウォルスの小説。映画ではファンタジーを信じる心が何を生み出すのか、実際に目にできることの幸運をじっくりとかみしめてほしいです。
監督は『シザーハンズ』『バッドマン』など、独創的で風変わりな作風で知られるティム・バートン。もう奇人監督と呼ぶなかれ。これほどの至福の時を作り出せる監督はそうはいなません。
*****************************
【ストーリー】
ジャーナリストのウィルは父エドワードと心が通いません。「劇的な人生を歩んできた」とおとぎ話のような話ばかりを得意気にする父にうんざりしていたからです。ウィルの結婚式で、エドワードは十八番の「息子が産まれた日に釣った巨大魚」の話をします。しかし、現実にはあり得ない話で注目を集める父の子供っぽさにウィルの我慢は限界に達し、その後3年間、父との連絡を一切絶ってしまいます。
ところが、エドワードが病に倒れたために、ウィルは妻を連れて帰省することに。病床でもなお夢物語を繰り返す父と、それを理解できない現実的な息子。ふたりの葛藤を描いた重苦しい現実の狭間に、輝かしいエドワードの過去のエピソードが挿入されます。
*****************************
自分の死を見せてくれる魔女、旅の相棒となった巨人、良い人ばかりが住んでいる街スペクター、1万本の水仙の花を贈ったプロポーズ……。いかにもバートン好みの奇妙なエピソード揃いですが、美しく洗練された夢のような映像には、観る者を喜ばせたいという優しい気持ちが溢れています。
エドワードは人々を騙したのか、それとも夢を与えたのか。真実が分かるラストは涙なしでは見られません。豊かな人生の送り方を知りたい人は必見!
若かりしエドワードに扮し、おとぎ話の主人公になりきるのはユアン・マクレガー。アルバート・フィニーが現在のエドワードを演じ、味わい深い演技を見せます。
ティファニーで朝食を(1961)
目にも楽しい映画的な魅力が詰まった
コミカルでオシャレなロマンティックコメディ
オードリー・ヘップバーンが小悪魔的なヒロインを演じたロマンティックコメディです。
原作は『冷血』で知られるアメリカの作家、トルーマン・カポーティの中編小説。映画は原作とはまったく違うようですが、映画ならではの演出が見事にハマり、“映像の力ってすごい”と思わずうならされました。
まずは映画の冒頭シーンが本当に素敵です。まだ人気のない明け方、タクシーから降り立ったオードリーがニューヨーク五番街に鎮座する宝石店ティファニーの前に佇み、クロワッサンを頬張りながら、窓越しに店内を眺めます。そこにクラシカルなバラード『ムーン・リバー』が流れると、シャレた雰囲気の中にも、物悲しさが漂います。
マダム巻にサングラス、ジバンシーのスリムなブラックドレスに身を包んだオードリーの美しくも、儚げな姿に目を奪われます。
*****
【ストーリー】
玉の輿を狙う娼婦、ホリー・ゴライトリー(オードリー・ヘップバーン)は、金持ちの男性を射止めるために夜な夜なパーティに繰り出し、「化粧室へ行く」と言っては男性たちから50ドルをもらい、生計を立てていました。
ある日、ホリーの住むアパートに、自称作家のポール・バージャク(ジョージ・ペパード)が引っ越してきます。何年もヒット作に恵まれないポールは裕福なマダム「2E」(パトリシア・ニール)の愛人をしていました。
ホリーはポールに「大好きな兄フレッドに似ているから」と親近感を抱き、ポールは屈託のないホリーが気になります。
しかし、そんな2人の前にホリーの夫ドク・ゴライトリー(バディ・イブセン)が現れます。実は南部出身のホリーは14歳でドクと結婚したものの、自由な暮らしを求めて、家を飛び出していたのです。
****
脚本を手がけたのは、『七年目の浮気』(’55年)のジョージ・アクセルロッド。監督は『ピンク・パンサー』シリーズのブレイク・エドワーズ。軽妙洒脱なコメディ作品が得意な2人は、男性を渡り歩いて生き抜く女性ホリーをシニカルに捉えたカポーティの原作をコミカルに描き、小粋なロマンティックコメディへと変えました。
14歳で結婚しなければならなかったホリーの過去に、当時のアメリカ特有の重い事情を感じますが、映画でのホリーは自由奔放で、明るく、愛らしいキャラクターとして描かれています。
結婚にお金を求めたり、恋人でもないのにポールのベッドに潜り込んで眠ったりと、ともすれば、軽薄で“あざとい”女性に見えてしまうホリーですが、オードリーがあっけらかんと演じて本当にキュートです。
カポーティはホリー役にマリリン・モンローをイメージしていたようですが、やはりモンローでは軽くなり過ぎたでしょう。ホリーは明るいだけのキャラクターではないのです。
自らを犠牲にし、他人の幸せのために生きてきたホリーが、“自由”を渇望する姿に思わず共感してしまいます。その手段がお金だったわけですが、ホリーはそれが間違いだと気づきます。そんなホリーの揺れる心情を、ホリーの飼う“(名無しの)キャット”を使って見事に表現したクライマックスシーンが秀逸です。
町でさ迷っていたネコを拾ってきたホリーは名前を付けず、ただ“キャット”と呼んでいます。まるで人生をさ迷う自らを投影したようなホリーの自虐的な行為の犠牲になってしまった哀れな“キャット”(;^_^A。でも、ホリーの部屋のシーンの度に登場するキャットは、ホリーに邪険にされても、ひたすらホリーにじゃれついていきます。その姿がいじらしく、たまらなくカワイイのですが、クライマックスシーンでは、そのいじらしさが最高潮に達し、忘れがたい名演を見せてくれます。
そして、忘れがたい名、ではなく“迷”演といえば、アパートの住人のユニヨシ(ミッキー・ルーニー)。コメディリリーフとして登場するユニヨシは、当時のアメリカ人が抱く典型的な日本人像に仕上げられています。かなり強烈なキャラクターなので、否定的な声が多いようですが、自由奔放なホリーと神経質なユニヨシとの丁々発止のやり取りは映画を楽しく盛り上げます。
物語の中心になるのは、ホリーとポールとのプラトニックな愛。ともに愛のない結婚相手や愛人のいる“すれた”2人の愛の行方は、笑ったり、切なくなったりとひねりの効いた展開で、最後まで目が離せません。
科捜研の女 ―劇場版―(2021)
人気ドラマシリーズの面白さは健在
緻密な科学捜査の醍醐味を堪能
科学捜査で殺人事件のトリックを解明する犯罪ミステリードラマ『科捜研の女』。20年以上続く、人気テレビシリーズが2021年に映画化されました。
重度の“科学捜査オタク”の法医担当・榊マリコ(沢口靖子)と、彼女を取り巻く、お馴染みの面々が世界をまたにかけた不審な科学者転落事件の真相に迫る本作は、長年のファンだけでなく、初めて観ても、とても楽しめる作品となっています。
*****
【ストーリー】
京都の洛北医科大学の法医学教授で解剖医の風丘早月(若村麻由美)が夜遅くまで大学の研究室にいたところ、かすかに「助けて」という声を聞きます。何事かと窓を見た早月の目の前を女性科学者が落下し、死亡してしまいます。
捜査一課の土門刑事(内藤剛史)や、榊マリコら科捜研のスタッフたちが現場に駆け付け、捜査を開始します。屋上に争った形跡はなく、自殺が疑われたが、土門が女性科学者と会ったと思われる男性科学者を追跡したところ、男性科学者が突然、建物から飛び降りて、死亡しまいます。そして、ロンドンやトロントでも科学者の不審な転落死が続きます。
******
おっとりとした印象のマリコが科学捜査のことになると、がぜん熱が入り、あっと驚く発見をして事件を解決してしまいます。そんなマイペースで、ちょっぴり天然気質のマリコに好感が持てます。いつまでも清楚で控えめな印象の女優・沢口靖子さんならではのキャラクターです。
〈未知の細菌〉を研究する謎めいた天才科学者・加賀(佐々木蔵之介)が絡む事件は二転三転し、あっと驚くトリックも。科学の知識が必要な本格ミステリーはなかなかスリル満点です。
また、警視庁に勤めるマリコの元夫・倉橋(渡辺いっけい)まで巻き込んだ人間関係の妙は長年のファンならたまらないでしょう。
20年以上かけて成長したキャラクターたちが堂々のスクリーンデビューを飾りました。
トップガン マーヴェリック(2022)
トム・クルーズの挑戦に拍手喝さいを贈りたい!
『トップガン』が観たかった人々を納得させる会心作
若かりしトム・クルーズがカリスマ的な魅力を放ち、大ヒットを記録したアクション映画『トップガン』(’86年)の36年ぶりの続編と聞き、「なぜ今さら? トム、大丈夫?」と思った方は私だけではないと思います。
ところが、ふたを開けてみれば、公開から3ヶ月時点での興行収入が日本では120億円を突破、本国アメリカでは7億ドル(約982億円)にのぼり、北米史上歴代第5位となる空前の大ヒットを記録しています。
私は、36年という長くて、重い月日を巧みに生かしたストーリー、そして、還暦直前に無謀な挑戦をやってのけたトム・クルーズの心意気に、胸が熱くなりました。
先の見えない不安が続く時代だからこそ必要なメッセージを携えて、愛や友情、夢や勇気を描いた『トップガン』の世界が鮮やかに蘇りました!
****************
【ストーリー】
ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル海軍大佐(トム・クルーズ)はトップガン史上最高の戦闘機パイロットとして、輝かしい戦歴を収めてきましたが、昇進を拒み続け、現場主義を貫いていました。
現在、スクラムジェットエンジン搭載の極超音速テスト機「ダークスター」のテストパイロットを務めるマーヴェリックは、優れた操縦技術で前人未踏の最高速度マッハ10を達成しますが、さらに記録を伸ばそうとし、ダークスターを空中分解させてしまいます。
この掟破りの行動により、マーヴェリックはノースアイランド海軍航空基地での任務を命じられます。その任務とは、トップガン卒業生から選りすぐられた若き戦闘パイロットたちに極秘ミッションの訓練を施すこと。そうして、30年ぶりに、自身が学んだ「トップガン」へ、今度は教官として戻ることになります。
****************
映画冒頭、朝焼けの飛行場で戦闘機を整備するシーンから、徐々に音楽が盛り上がり、1作目の挿入歌『デンジャー・ゾーン』のイントロに合わせて。戦闘機が大空へ飛び立ちます。1作目とまったく同じシークエンスでの幕開けに、“懐かしい”という思いがこみ上げます。
その後も、マーヴェリックが太陽を背にバイクで疾走するシーンや、トップガンへ送られる顛末、パイロットたちが集うバーで初対面する候補生とたち教官とのやり取りなど、1作目を彷彿させるシーンが数々あり、思わず『トップガン』が帰ってきた感慨に浸ってしまいます。
特に、日本で公開された35年前にリアルタイムで1作目を観た方にとっては、続編が観られること自体が奇跡のような出来事なので、特別な思いを抱くのではないでしょうか。そんな1作目のファンの〈期待=厳しい目〉に応えるために、本作はかつての『トップガン』のイメージを損なわないよう細心の注意を払い、丁寧に作られた印象があります。
30年ぶりにトップガンへ帰ってきたマーヴェリックが抱くのは、懐かしさではなく、相棒のグースを失った哀しみ。家庭を持たず、昇進も拒み、イラク戦争に2度従事するなど第一線で戦い続けてきたのは、マーヴェリックがグースの死の責任をずっと背負ってきたからだと分かります。
やんちゃで向こう見ずな青年だったマーヴェリックは心に痛みを抱えたキャラクターとして描かれており、ちょっぴり暗い印象も否めませんが、苦悩の人生を送ってきたマーヴェリックにとても共感できます。
といっても、バーの経営者として、かつての恋人ペニー(ジェニファー・コネリー)に再会するなど、恋のキャリアもしっかり築いていた様子 ( ´艸`)。知的で凛とした印象のジェニファー・コネリーが粋なヒロイン、ペニーを好演。トム・クルーズとの大人のラブシーンは控えめで、微笑ましいです。
さて、本作の見どころはグースの息子、ルースター(マイルズ・テラー)がトップガンの卒業生として、マーヴェリックと再会すること。グースの死をめぐり因縁のある2人はぶつかり合いながらも、米海軍の戦闘機パイロットとしての誇りと絆で結びつき、ならず者国家の悪企みを阻止するために、命がけの特殊ミッションへ飛び出していきます。
口ひげをたくわえたルースター役のマイルズ・テラーはどことなくグース役のアンソニー・エドワードと風貌が似ており、アイスマンのような小憎らしい若者ハングマン(グレン・パウエル)もいます。そして、マーヴェリックのかつてのライバル、アイスマン役のヴァル・キルマーも闘病の影響が残る身体をおして出演しています。
ストーリー的には1作目の焼き直しなのですが、本作に限っては、それがいいのです。物語中盤までは、まるで「トップガン」同窓会のような懐古趣味的な展開ですが、特殊ミッションを描いた物語後半から、いよいよ21世紀の『トップガン』が幕を開けます!
現在、米海軍で運用中のF/A-18E/Fスーパーホーネットなど、最新鋭の戦闘機を使った飛行シーンではIMAXカメラを機内に搭載し、実際に戦闘機に乗っているかのような臨場感あふれる映像が楽しめます。最新CGを駆使したダイナミックな映像に、二転三転するドラマチックな展開、大団円のラストまで、本当に素晴らしいです!
それにしても、本作では、改めてトム・クルーズの存在の大きさを感じました。36年にわたり、ハリウッド映画界のトップスターであり続けていますが、人気者であるがゆえに、プライベートでのスキャンダルも注目され続けました。宗教に心酔しすぎて、一時期は“アブナイ”人のように思われたことも。
‘90年代までは『レインマン』(’88年)、『マグノリア』(’99年)、『アイズ・ワイド・シャット』(’99年)など、ドラマ性の高い作品にも出演していましたが、だんだんとアクションやSFなどのエンタメ作品で超人的なキャラクターばかりを演じるようになり、マンネリ感も否めませんでした。
近年は男前すぎる代償なのか、年齢的な容姿の変化が取りざたされるようにもなりましたが、本作を観ると、まだまだ爽やかオーラは健在です。そこに酸いも甘いも噛分けた大人の余裕が加わったような気がしました。
本作のテーマの一つは限界への挑戦ではないでしょうか。36年後に同じ役が成長した姿を演じたトムの挑戦は胸に響くものがありました。
物騒で不安なことばかりの今の時代、世代を問わず、さまざまな壁にぶつかり、自分の限界を感じている方も多いと思います。でも、自分の意思があれば乗り越えられる! 大空へ果敢に飛び立つ元トップガンの姿に勇気と元気をもらいました。
くまのプーさん(2011)
安心して楽しめる『くまのプーさん』と
ディズニーの伝統的な2Dアニメの魅力を再認識
2011年、ディズニーの人気キャラクター『くまのプーさん』の劇場用長編映画が35年ぶりに製作されました。
のんびり屋で食いしん坊のプーを始め、愛らしいキャラクターたちが繰り広げる、のどかでちょっぴり〈危険〉な1日が伝統的な2Dアニメーションで描かれています。
****************
【ストーリー】
ある朝、腹ペコで目覚めたプーは、自分の家のハチミツが底をついていたことを知り、ハチミツを探しに100エーカーの森へ向かいます。
森では、尻尾を無くしたイーヨーのために、仲間たちが「イーヨーのしっぽ探しコンテスト」をすることに。みんな尻尾の代わりになるものをいろいろ集めてきますが、どれもしっくりいきません。
プーはコンテストのご褒美のハチミツにあり付けず、お腹はすく一方です。
そんな中、クリストファー・ロビンが「すぐもどる」と書置きを残していなくなってしまいます。これを知ったかぶりのオウルが怪物“スグモドル”と勘違い。プーたちはロビンを怪物“スグモドル”から救い出すため、ある計画を立てますが……。
****************
物語は2つのエピソードが絶妙に絡み、愛すべきキャラクターたちの魅力が全開です。
ハチミツの事で頭がいっぱいのお気楽なプーを始め、何事にも悲観的ないじけキャラのイーヨー、小さい体で健気に頑張るピュアなピグレット(ピグー)、えらそうに間違える仕切り屋のオウルなど、個性豊かな超天然系キャラクターたちのとんちんかんなやり取りが本当に楽しく、ずっと微笑んで見ていられます。
ディズニーの創始者、ウォルト・ディズニー生誕110周年記念作として製作され、ディズニーのベテランアニメーターたちが集結。製作総指揮はピクサーアニメのヒットメーカー、ジョン・ラセター。他愛ない物語を軽快に飛ばすユーモアセンスはさすがです。
同時上映された短編映画『ネッシーのなみだ』もキュートでほろっとする良作です。
ちなみに、私は臆病だけど、穏やかで心優しいピグーが大好きです。臆病なのはおそらく自己肯定感が低いからなのかもしれません。だから、とても他人事とは思えないのです(;^ω^)。それでも、勇気を出して、頑張る姿に励まされます( ´艸`)
シカゴ(2002)
豪華ハリウッドスターが華麗に歌い踊る!
ハリウッド製ミュージカル映画の面白さを堪能
人気ブロードウェイ・ミュージカルを2002年に映画化した本作は、数々の賞レースを席巻。米国アカデミー賞では全9部門にノミネートされ、作品賞のほか、助演女優賞、美術賞、衣装賞、編集賞、音響賞の6冠を獲得しました。
舞台は1920年代のシカゴ。ナイトクラブのスターダンサーの座をめぐり、したたかで、たくましくて、カッコイイ女性たちが圧巻のショータイムを繰り広げます。
****************
【ストーリー】
ホットなシカゴのナイトクラブ。人気ダンサー、ケリー姉妹の姉ヴェルマ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)が公演直前に、慌ててやってきます。素早く衣装に着替えたヴェルマはたった1人で舞台に立ち、『オール・ザット・ジャズ』を力強く踊り、拍手喝さいを浴びていました。そんなヴェルマをダンサー志望のロキシー(レニー・ゼルウィガー)は羨望の眼差しで見つめていました。
ところが、その後、ヴェルマは不倫していた自身の夫と妹を殺した罪で逮捕。そして、ロキシーも自分を騙した浮気相手の男を殺してしまい、刑務所へ入ることになります。そこには、先に殺人罪で収監されたヴェルマがいました。
****************
描かれるのは、“殺人犯”という話題性を得て、スターダンサーの座をつかみ取ろうとするヴェルマとロキシーとの“下剋上”の闘い。死刑も免れない崖っぷちの状況下、敏腕弁護士ビリー・フリン(リチャード・ギア)を交えた三つ巴の駆け引きがゴージャスなミュージカルシーンとともに展開されます。
ミュージカル映画の醍醐味は、俳優たちの意外な姿が見られること。通常はセリフ劇に終始しているハリウッドスターが活き活きと歌い踊る姿に見とれてしまいます。
抜群の美貌とスタイルが目を引くキャサリン・ゼタ=ジョーンズはスター然とした高飛車なヴェルダ役を貫禄たっぷりに演じ、見事、米国アカデミー賞助演女優賞に輝きました。
マリリン・モンローを彷彿させるブロンドヘアのロキシーは単純で冴えない女性でしたが、思いがけず人々の注目を浴びたことから、高慢で計算高い女性へと変貌していきます。
ロキシーを演じるのは『ブリジット・ジョーンズの日記』(‘01年)で、ぽっちゃりしたキュートなヒロインを演じたレネー・ゼルウィガー。本作では、腹話術の人形になったり、妖艶な女性になったりと多彩なミュージカルシーンをこなしていますが、『ブリジット~』からは想像のつかない、すらりとした美脚に驚かされます。
そして、クールな二枚目役の多いリチャード・ギアが楽しそうに歌い踊る姿も見どころです。
殺人犯になっても驕り高ぶるヴェルダはやり手のビリーに弁護を頼み、無罪放免となり、華々しくステージへ復帰しようと考えていました。しかし、ビリーはロキシーのお人よしの夫エイダス(ジョン・C・ライリー)の無垢な愛にほだされ、ロキシーの弁護をすることに。ビリーによって、悲劇のヒロインに仕立て上げられたロキシーが、新聞のトップ記事を飾り、一躍、大衆の人気者となる一方、ヴェルダは過去の人になりつつありました。
刺激的で煽情的な大都会シカゴ。目新しいトピックが大好きな大衆心理を皮肉る、愉快で痛快なストーリー展開の中で、“殺人犯”の判決さえショータイムのように面白がる人々に踊りに踊らされたヴェルダとロキシーが辿り着くクライマックスシーンが実に爽快です!
本作の成功で、‘50~’60年代の絶頂期以降、徐々に衰退していったハリウッド製ミュージカル映画は鮮やかな復活を果たしました。
本作以降、『レント』('05年)、『ヘアスプレー』('07年)、『マンマ・ミーア!』('08年)、『NINE』('09年)、『レ・ミゼラブル』('12年)など、人気ミュージカルを豪華にアレンジしたミュージカル映画が次々に作られています。
そして、ハリウッドスターたちも続々とミュージカルデビューを果たし、シリアスな映画では見られない、意外なエンターテイナーぶりを見せてくれるのはとても楽しいです。
みなみに、本作を手がけたロブ・マーシャル監督は来年2023年、ディズニー・ミュージカル映画『リトル・マーメイド』の実写版を監督するそうです。