映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

リトル・マーメイド(1989)

伝統と革新が融合した画期的なディズニーアニメ
ディズニーが誇るセル画で製作された最後の作品

'89年にアメリカで公開されたディズニーアニメ第28作『リトル・マーメイド』(日本では‘91年公開)は、本作以降、『美女と野獣』(’90年)、『アラジン』(’92年)など、ディズニーアニメーションが大ヒットを連発したことから、《第2期ディズニー黄金時代》が幕を開けるきっかけになった作品です。

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【ストーリー】
海底の世界・アトランティカに暮らす16歳の人魚姫アリエルは地上の世界に憧れていました。ある日、好奇心から海上を航行していた船を覗き込んだアリエルは、同乗していた人間の王子・エリックに一目ぼれしてしまいます。
そんな中、嵐がやってきて、船が沈没し、エリックは海へ投げ出されてしまいます。アリエルは必死でエリックを助け、浜辺で介抱します。すると、アリエルの美しい歌声を聴いたエリックもまた、彼女に惹かれるのですが、他の人間が来たとたん、アリエルは慌てて姿を隠してしまいました。
それ以来、エリックに心を奪われたアリエルは、海の魔王アースラの誘いにのり、「自分の声と引き換えに3日間だけ人間になり、その間にエリックとキスを交わせるか」という賭けをすることに。
ついに念願の人間になれたアリエルはエリックに会いに行きますが……。

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原作はアンデルセンの『人魚姫』。お姫さまをヒロインにした、こてこてのディズニー映画ですが、人魚姫のアリエルはおてんばで好奇心旺盛なヒロインに生まれ変わり、ただ王子様を待っているだけのプリンセスではありません。

陽気な海の仲間たちに助けられながら、王子のハートを射止めようと奮闘するアリエルの物語はスマッシュヒットを記録。『美女と野獣』のベルや、『アラジン』のジャスミンといった、勇敢なディズニープリンセスが後に続きました。

そして、古典童話をエキサイティングなストーリーやファンタジックな映像で現代的にアレンジしたディズニーアニメは多くの女性たちの心を捉えました。本作の主題歌『アンダー・ザ・シー』がアカデミー賞グラミー賞を受賞するなど、本格的な音楽も大人も楽しめる作品になった理由でしょう。

そんなディズニーアニメ復活の立役者となった本作は、皮肉にもディズニーが誇る伝統的なセル画で製作された最後のディズニーアニメにもなりました。

監督・脚本はロン・クレメンツとジョン・マスカー。このコンビはのちに『アラジン』から始まる、CGを駆使した壮大なスケールのアニメーションへ向かっていきます。

背景の70%をしめるブルーに彩られた神秘的な海の底はシーンに合わせて巧みに表情を変えています。

今、改めて観ると、伝統的な手描きアニメがとても新鮮に、そして斬新に感じられます。


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リトル・マーメイド(吹替版)

キンキーブーツ(2018)

心に染みるストーリーを明るく、華やかに歌い踊る
傑作ブロードウェイ・ミュージカルがスクリーンに

「松竹・ブロードウェイシネマ」では、舞台の本場アメリカ・ブロードウエイミュージカルを映画館で楽しむことができます。

本作は、2013年にブロードウェイで上演され、トニー賞に輝いた大ヒットミュージカルです。

昨年2021年に「松竹・ブロードウェイシネマ」で公開され、全国各地の映画館で満員御礼の大ヒットとなったことから、今年2022年7月26日(火)の1日限定でアンコール上映されるそうです。※数日公開される映画館もあり。

笑いと涙、感動に溢れた最高のミュージカルが再び幕を開けます!

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【ストーリー】
イギリスの田舎町ノーサンプトンの老舗靴工場、プライス社の跡取り息子チャーリーはロンドンで恋人と新たな生活を始めようとしますが、父の急逝で帰郷し、やむなく工場を継ぐことに。ところが工場は倒産寸前で、昔ながらのスタッフたちを解雇せざるを得ない状況に頭を悩ませていました。
そんななか、ロンドンで活躍するドラァグクイーン、ローラに出会ったチャーリーは「私たちに合うハイヒールが無い」と嘆くローラの言葉に、新しい靴のアイデアをひらめきます。そして、周囲の戸惑いや反発を受けながらもローラをデザイナーに迎え、「危険でセクシーな女物の紳士靴 (キンキーブーツ)」の製作に乗り出します。

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イギリスの実話を基にしたストーリーは「自分らしさ」をテーマに、チャーリーとローラの友情や葛藤、心の成長が描かれています。

子どものころから、工場を継ぐことや、男らしく生きることなど、自分の意に反することを父親から求められていた2人が、唯一無二の靴、「キンキーブーツ」を作る過程で、自分のありのままの姿を認めて望みを貫こうとする姿に勇気づけられます。

また、伝統的な靴職人たちが進歩的なローラやドラァグクイーンの仲間たちの登場で、偏見を捨て、生き生きと変わっていく姿は普遍的な展開ながらも心を打たれます。

誰の心にも触れるだろう秀逸なストーリーを、とびきりゴージャスにアレンジしたミュージカルシーンは本当に素晴らしいです!

全楽曲を手がけるのはアメリカン・ポップの女王、シンディ・ローパー。キャラクターやシーンに合わせた多彩な楽曲を、俳優たちが渾身のパフォーマンスで盛り上げます。特にローラを演じたマット・ヘンリーは圧巻です!

ローラの複雑な内面の演技と、人気ドラァグクイーンにふさわしいダイナミックなダンスシーンを見事にこなしたヘンリーは本作で数々の賞に輝いています。そして、そんな難しいローラ役を2016年と2019年の日本公演で演じ、絶賛された三浦春馬さんの才能を惜しまずにはいられません。

本作の醍醐味は、熱唱する俳優たちをアップで捉えるなど、ドラマチックなカメラワークにより、観客席とは別の視点で臨場感が味わえること。観客の様子も映し出されており、本場ブロードウェイの “通”の観客たちがノリノリで楽しんでいる姿も微笑ましいです。国境や時間を超えたミュージカルファンの一体感に思わず感動してしまいます。

クライマックスの大団円まで、圧倒的に楽しいミュージカルをぜひスクリーンで味わってほしいです( ´艸`)。


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broadwaycinema.jp

グラン・ブルー(1988)

素潜りに命を賭ける男たちが生きる場所とは
神秘的な海の魅力をたっぷり伝える夏の定番

ニュー・シネマ・パラダイス』(’88年・日本公開は‘89年12月)、『ゴッドファーザー PARTIII』(‘90年・日本公開は’91年)、そして、この『グラン・ブルー』(’88年・日本でヒットしたのは’92年)。 ‘90年代初頭に日本で公開され、話題となったこれらの作品を観て、私は3作で印象的に描かれたイタリア・シチリア島に一気に惹かれました。

マフィアを生んだ人々の激しさと逞しさ、古き良き時代への郷愁を誘う町並みの美しさや温かさ、そして、真っ青な海や古代遺跡が遺る大地などワイルドな島の明るさや神秘性――。

時は今から30年前、当時、ボンビー大学生だった私にとって海外は未知の世界でしたが、映画を通して知ったシチリア島多面的な魅力にどっぷりハマり、いつかシチリア島へ行くことが夢になりました。(1999年にシチリア島をめぐりました!)

本作は実在するフリーダイバー、ジャック・マイヨールをモデルに、“海”に魅せられた潜水夫たちの友情や夢、愛などを描いたロマンティックな物語です。

シチリア島のほか、ギリシャや南フランスなど、ヨーロッパの海辺を旅しているようなオシャレな映像も見どころで、夏になると観たくなる作品です。

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【ストーリー】
1965年ギリシャ。のどかな海沿いの村で暮らすジャック・マイヨールは素潜りが得意で、海中に潜り、魚たちを見るのが大好きな少年でした。いばりん坊の友人エンゾはそんなジャックをライバル視していました。
1988年シチリア。フリーダイバーとなったエンゾ(ジャン・レノ)はジャック(ジャン=マルク・バール)を探すことにします。同じころ、ニューヨークで働く保険調査員のジョアンナ(ロザンナ・アークエット)が雪に覆われたアンデス山脈へ事故調査のためにやってきます。そこでジョアンナは氷結した湖中へ素潜りで向かうジャック・マイヨールに出会います。そして、危険な任務をこなすとは思えないような物静かな物腰のジャックに心を奪われます。 
その後、コート・ダ・ジュールへ戻ってきたジャックの前に、エンゾが現れます。フリーダイビングの世界チャンピオンとなったエンゾは、シチリア島タオルミーナで開催される無呼吸選手権でジャックに勝負を挑もうとしていたのです。
さらに、喧騒と“金”ばかりのニューヨークに嫌気が指したジョアンナは、ジャックが忘れられずタオルミーナへ向かいます。

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少年時代から素潜りの腕前を競い合ってきたジャックとエンゾの命を賭けたフリーダイビングの闘いが描かれます。

少年時代から心優しく、イルカをこよなく愛するウブなジャックと、少年時代以上に尊大になったのに、なぜかとってもお茶目なエンゾの凸凹コンビが良い味を出しています。

最初の対決はシチリア島のリゾート地・タオルミーナ。いばりん坊のエンゾが「マンマの作ったパスタ以外を食べたら、マンマに怒られる」とお茶目な面を見せた断崖のレストランは、映画のロケ地として人気になっています。(私は行けませんでした( ;∀;))

穏やかな笑みで人柄の良さがにじみ出る主人公のジャックも良いのですが、やはり注目はエンゾを演じたジャン・レノでしょう。本作はジャン・レノが『レオン』(‘94年)で世界的なブレイクを果たす前の作品ですが、やっぱり渋くて、カッコいい! トレードマークの丸メガネをかけ、ブリーフタイプの海パン姿も凛々しくて、セクシーな、海の男ジャン・レノは必見です! 

素潜り対決とともに描かれるのは、ジャックとジョアンナの愛の行方。内向的で、イルカにばかり関心がいくジャックが、エンゾの粗削りなアシストや、ジョアンナの大らかさに心を開き、成長していく姿が、雄大な海に漂っているかのような、ゆったりとしたテンポで紡がれます。明るく、チャーミングジョアンナを演じるロザンナ・アークエットは、柔らかな笑顔とコケティッシュな魅力で、映画に華を添えます。

酸素ボンベをつけず、無呼吸で100m以上もの深海をめざすフリーダイビングは過酷でありつつも、神秘的な世界を堪能できます。蒼に彩られた海中シーンは見応えたっぷりです!

ほかにも、ジャックがイルカと泳ぐシーンや、月夜に照らされた夜の海など、多様な海の魅力を存分に伝えた映像、さらに幻想的な海をイメージした荘厳な音楽やイルカの鳴き声など、映画全編に癒しが溢れています。

といっても、心臓に異常な負担のかかる素潜りには、人々の想像を超えた結末が用意されているのですが……。

監督・脚本はフランスのヒットメーカー、リュック・ベッソン。彼の作品では『レオン』(’94年)が好きな方が多いと思いますが、私は本作が一番好きです。


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明日の食卓(2021)

子育てを通して見えてくる人間の光と闇
誰にでも、どこか思い当たるリアルなドラマは必見

「息子を殺したのは、私ですか――」

ドキッとするようなキャッチコピーの付いた本作は、“石橋ユウ”という同姓同名の10歳の男の子を持つ3人の母親と、家族をめぐる物語。

年齢も住む場所も境遇も異なる、三者三様の子育てに励む母親たちの誰が、どんな理由で、自分の子どもを“傷つける”のでしょうか――。見ごたえあるドラマが幕を開けます。

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【ストーリー】
神奈川在住の43歳のフリーライター・石橋留美子(菅野美穂)はやんちゃ盛りの2人の息子に手を焼く毎日。10歳の長男・悠宇は反抗的で幼い弟とケンカばかり。フリーカメラマンの夫・豊(和田聰宏)は家庭を留美子に任せきりです。
そんなストレスのたまる日常を、留美子はブログ『鬼ハハ&アホ男児Diary』に綴り、せめてもの息抜きをしていました。
36歳の専業主婦・石橋あすみ(尾野真千子)は子どものために環境の良い静岡へ引っ越してきたばかり。夫・太一(大東駿介)の母・幸絵(真行寺君枝)が住む家の敷地内に瀟洒な家を建て、10歳の1人息子・優は素直な「いい子」に育ち、満ち足りた生活を送っていました。
大阪に住む石橋加奈(高畑充希)は30歳のシングルマザー。ローンを抱え、生活はぎりぎりですが、昼夜を問わず懸命に働き、10歳の1人息子・勇を大切に育てていました。

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映画は、これら3つの家族の生活を並行して描き、それぞれの家族に巣くう問題を明らかにしていきます。

仕事とワンオペ育児に疲れ切る留美子は反抗期の悠宇を頭ごなしに叱ってばかり。大人しい性格で、夫や姑に遠慮しているあすみは優に依存しています。貧困に苦しみながらも勇の前では明るく振舞う加奈の姿は勇を悩ませています。

みんな〈子どもを一番に思っている〉母親たちですが、その思いを子どもたちが正しく受け止めてくれるとは限りません。

無条件に慕い合うはずの母と子どもの思いがすれ違ってしまうのはなぜなのでしょうか?

ただ、一つ言えるのは、貧困や介護など大人が作り出した社会問題、そして、何より夫婦の関係が子どもたちに大きな影響を与えている、ということです。

親と子ども、どちら側の葛藤も共感できるストーリー展開にぐいぐい引き込まれます。そして、現代を象徴するような3つのタイプの母親像をリアリティたっぷりに演じた3人の女優たちの大熱演が光ります。

2016年に出版された椰月美智子の同名小説は、子育て世代を中心に大きな反響を呼びましたが、人間の心に宿る光と闇を鋭くえぐった本作は、誰にとっても、とても興味深い作品に仕上がっています。


明日の食卓 [ 菅野美穂 ]


明日の食卓(1) (角川文庫) [ 椰月 美智子 ]

トイ・ストーリー3(2010)

満を持して登場したシリーズ第3弾
子どもを思うオモチャたちの健気な姿に感動!

今や人気ジャンルとして、映画界にとって絶対的な存在となったフルCG長編アニメーションですが、そのルーツは1995年、ピクサースタジオが製作した『トイ・ストーリー』(’95年)から始まりました。

それから15年後に登場した本作を観て、他のスタジオが続々と参入し、次々にフルCG長編アニメが作られるなか、映像革命を成し遂げ、映画史にその名を残す『トイ・ストーリー』はやはり別格の存在だと感じました。

前作『トイ・ストーリー2』(‘99年)から11年の時を経て、ついに製作されたシリーズ第3作は、第1作が登場したのと同じ位の驚きと感動に満ちていました。

冒頭、おなじみのオモチャたちの登場シーンが粋で楽しいです。各オモチャたちには趣向を凝らした見せ場が用意され、ワクワクするのと同時に、「懐かしい」という感慨で胸が熱くなります。

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【ストーリー】
木製カウボーイ人形のウッディやアクショントイのバズ・ライトイヤーらは元気いっぱいに遊んでいます。けれど、これはビデオの中の昔の姿。大好きなアンディは大学生になり、オモチャ遊びをとっくに卒業。オモチャたちは家を巣立つアンディが自分たちを連れて行ってくれるか心配していました。
ところが、アンディが選んだのはウッディだけ。しかも他のオモチャたちはとんだ手違いからゴミ捨て場に出されてしまいます。慌てたウッディの機転で清掃車行きを免れたオモチャたちはまたまた手違いから、今度は保育園に寄付されてしまいます。「家に帰ろう」と説得するウッディに対し、アンディに捨てられたと思い込んだオモチャたちは、遊んでくれる子どもたちがいる保育園で暮らすことに決めました。

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10年以上のブランクを生かしたストーリーが素晴らしいです。子どもが成長し、オモチャ遊びを卒業した時、オモチャはどうなるのか。おそらく捨てるか、誰かにあげるか、邪魔にならない所に放置しておくのではないでしょうか。

誰もが経験しつつも、大して気にも留めずに解決していた些細な問題を、本作では大切に扱っています。

見捨てられたオモチャたちによる波乱の冒険はユーモラスですが、かなり切ないです。オモチャたちが抱く大切な人へのピュアな思いは、豊かな心を失いがちな大人の琴線に間違いなく触れます。子どもたちには友情や絆の大切さがしっかり伝わるでしょう。

個性溢れるオモチャたちによるギャグも快調。笑いと涙がたっぷり詰まった名作シリーズです。

当初、『トイ・ストーリー』シリーズは本作で最後の予定だったそうですが、多くの熱い声をうけて、本作からさらに9年後の2019年、シリーズ第4弾『トイ・ストーリー4』が製作されました。

本作同様、子どもたちと遊びたくて仕方がないオモチャたちの切ない思いをテーマに、明るくも悩めるオモチャたちの友情と冒険を描いた第4作も抜群に面白いです!

そして、2022年7月1日より、『トイ・ストーリー』の人気主要キャラクター、硬派なオモチャバズ・ライトイヤーを主人公にしたスピン・オフ映画『バズ・ライトイヤーが絶賛公開中です!


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万引き家族(2018)

人とつながるためには何が必要?
是枝裕和監督が冷徹に見つめた絆の物語

この家族のつながりは、生きるための“金”か、人を思いやる“情”か、家族なら当然あるはずの“絆”か?

ショッキングなタイトルが表わすとおり、本作の主人公一家は日常的に万引きを行い、生活の糧にしています。しかも、父親が幼い息子にやらせているのです。

一体、どうして、こんな家族関係が生まれたのか? 『誰も知らない』('04年)、『そして父になる』('13年)など、シビアな家族の姿を題材にし、世界的な評価を高めてきた是枝裕和監督が原作・脚本・編集を手がけた問題作は、家族問題に留まらず、<人と人とのつながり>について問いかけ、さらに多くの人々の共感を呼び、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールに輝きました。

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【ストーリー】
舞台は東京下町。父・治(リリー・フランキー)と息子・祥太(城桧吏)はスーパーマーケットで万引きした帰り道、団地の外廊下に幼い女の子・ゆり(佐々木みゆ)が独りでいるのを見つけます。外は冷え込んでおり、見かねた治はゆりを家へ連れてきてしまいます。
古びた一軒家には、治の妻・信代(安藤サクラ)、治の母・初枝(樹木希林)、信代の腹違いの妹・亜紀(松岡茉優)が待っていました。彼女たちはゆりに驚きながらも、盗品のカップラーメンで夕食を囲みます。信代が誘拐犯もどきの治の行動を突っ込んだり、初枝がゆりを優しくあやしたりと、それぞれが思い思いの言動をとる夕食はとても賑やかで、和気あいあいとしています。
深夜、治と信代はゆりをこっそり自宅へ送り届けますが、ゆりがいた部屋から男性の怒鳴り声を聞いた信代はゆりを再び連れ帰り、そのまま一緒に暮らすことにします。

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冒頭の夕食シーンでは、万引きを悪びれもしない、あっけらかんとした家族たちの様子が描かれます。飄々とした治や、現実的で辛辣な信代、穏やかだけど、したたかそうな初代、そして、無気力・無関心な亜紀らの軽口を交えたやり取りはとても自然で、こんな“ちょい悪”家族はいそうな気もしてきます。

しかし、この家族には生きていくには当然とも言えますが、なんとも厳しいルールがあります。それはだれもが収入を出さなければいけないということ。治はボヤキながらも日雇いで工事現場へ、信代はクリーニング工場でアクセク働いています。初代は年金から、そして、まだ働けない祥太は万引きをして、自分の役割を果たしているのです。(なぜか亜紀だけは免除されています)

まさに“金”でつながっているような家族です。しかも、祥太は「小学校に行くやつは自分で勉強ができないからだ」という治の話を信じ、小学校へ通っていません。また、治の「店にあるものはまだ誰のものでもないから、盗みじゃない」という話も黙って受け入れています。

しかし、治がそう祥太に話した理由が後半で明らかになります。ほかにも、家族がゆりの面倒をみたり、亜紀が家に生活費をいれなかったり、祥太が治を“お父さん”と呼ばなかったりする家族の謎めいた言動の一つ一つが伏線だったことに気づく後半の展開にうならされます。

そして父になる』に続き、難しい父親役を自然体で演じるリリー・フランキー、社会の暗部を鋭く指摘する信代に説得力を持たせた安藤サクラ、投げやり生きる亜紀を演じた松岡茉優は際どい風俗シーンにも挑戦しています。そして、訳あり家族をより意味深なものにする樹木希林の存在感はさすがの一言です。

さらに、理不尽な大人の世界で生きようとする健気な2人の子ども、祥太とゆりを演じた子役たちもとてもいいです。

是枝監督が実際に起こった、親の死亡届を出さずに年金を不正受給していた家族の事件に着想を得たストーリーは、社会の底辺でひっそり生きるしかない人々の物語。決して幸福ではない運命を背負ってしまった家族が求めたものは、“自分を否定しない”人たちとのつながりでした。

家族・親子・夫婦・恋人・友人・同僚……、悩んでも、煩わしくても、求めてしまう人とのつながり。そこに“本物の絆”はあるのだろうか。ふと、自分の人間関係を見直してみたくなりました。


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レナードの朝(1990)

再び朝が迎えられる日々に感謝したい
名優たちが入魂の演技で紡ぐ感動作

30年もの間、“意識”を奪われて生きていた難病患者レナードの束の間の “目覚め”を描いた珠玉のヒューマンドラマです。

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【ストーリー】
1969年、極端に人づきあいが苦手で、研究ばかりしていたセイヤー医師(ロビン・ウイリアムズ)がニューヨーク・ブロンクスの慢性神経症患者専門の療養型病院で働くことになります。
この病院には嗜眠性脳炎の患者たちが長期入院していました。話しかけても反応がなく、自分の意思で動くこともできず、じっと車椅子に座っているだけの患者たちにセイヤー医師は戸惑います。
しかし、セイヤー医師は患者たちに反射神経が残っていることを発見し、患者たちの意識を回復させようと試みます。そして、未承認のパーキンソン病の新薬に有効性を感じたセイヤー医師は30年にわたり入院する最も重症な患者レナード(ロバート・デ・ニーロ)に治験を始めます。

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映画のストーリーは、イギリスの神経学者オリバー・サックスが自身の臨床経験を著した原作『Awakenings』を基に創作されたフィクションで、1969年の夏にたった一度だけ起きた奇跡の出来事として描かれています。

映画はレナードの少年時代の回想から始まります。物静かな少年レナードは右手の機能が失われ、字が書けなくなる異変に襲われます。自宅で療養することになったレナードはいつか友だちと再び遊べる日を望みながらも、症状が悪化し、20歳で完全に体の機能を失ってしまいます。それから30年……。静かに寄り添う老いた母親の傍らで、レナードは虚ろな目で宙を見つめるばかりでした。

映画の序盤は、病気の過酷な現実を突きつけます。レナードのほかにも、意識障害により、自分では何もできない状態でいる患者たちの姿に、〈こんな病気があるのか〉と驚くとともに、〈もし自分だったら〉と考えずにはいられません。

治験が成功し、レナードが目覚めた時は本当に感動します。再び取り戻した日常生活を無邪気に楽しむレナードの姿はもちろん、彼の回復を心の底から喜ぶ母親やセイヤー医師、そして病院の看護師たちの優しさに胸が熱くなります。

レナードに続き、新薬を投与された嗜眠性脳炎の患者たちが次々に目覚め、病院はにわかに活気づき、笑顔が溢れます。ただし、うれしいことばかりではありません。知らぬ間に長い年月が過ぎていたことを知った患者たちは残酷な現実を嘆きます。それでも、再び取り戻した生きる喜びをかみしめ、前向きに生きようとします。

しかし、幸せな時は長くは続きません。薬が効かなくなったレナードに、再び異変が表れます。脳や体の動きが制御できなくなってきたレナードは、再び眠りにつく時を恐れながらも、自分らしさを示そうとします。

そんなレナードらしさが出るのは、彼が初めて恋を経験するエピソード。レナードと同じ病気の父を見舞うポーラ(ペネロープ・アン・ミラー)に惹かれたレナードは、思い切って声をかけ、病院の食堂で話し合う仲になります。彼女に会う日はジャケットに着替え、髪の毛を整えて、一人前の男性として精いっぱい振舞うレナードでしたが、自分の未来が分かった時、ある決断を下すのです。そうして生まれた名シーンは必見です。健気なレナードと、彼の決意を優しく受け止めるポーラの姿に涙が止まりません!

名優ロバート・デ・ニーロが圧倒的な演技力でレナードへ感情移入を誘います。一方、献身的なセイヤー医師を誠実に演じたロビン・ウィリアムズは『いまを生きる』(’89年)に続く、ハートフルなヒューマンドラマで見事コメディ俳優から脱皮しました。

レナードが限りある時間の中で教えてくれたのは、朝、目覚めることの喜びと、愛する人たちと過ごすことの幸せ。これらが当たり前のようでいて、当たり前でないのは、多くの人が感じていることだと思いますが、例え良いことばかりでなくても、“生きている今”を大切にしたいと思える作品です。


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レナードの朝新版 (ハヤカワ文庫NF ハヤカワ・ノンフィクション文庫) [ オリヴァー・サックス ]