映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画(2019)

不可能に挑んだインドの火星探査ミッションとは?
ポジティブになれる楽しいインド映画

2014年、インドがアジアで初めて火星探査機「マンガルヤーン」の打上げに成功しました。その快挙までの軌跡をユーモラスに描いた本作は、インド映画らしいポジティブなパワーに溢れた作品です。

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【ストーリー】
2010年、インドの宇宙事業の命運をかけたロケットの打ち上げが失敗に終わります。それは、
インドの宇宙研究機関(ISRO)で、プロジェクトディレクターとして働くタラ(ヴィディヤ・バラン)の判断ミスでした。
タラはプロジェクト責任者のラケーシュ(アクシャイ・クマール)とともに、火星探査プロジェクトに移動させられてしまいます。技術力も予算も劣るインドにとって、火星探査機の開発など夢のまた夢で、2人はいわば「閑職」へ追いやられたのでした。
ラケーシュは実現不可能な火星ミッションに虚無感を感じていたものの、主婦のタラが「揚げパン」の作り方にヒントを得て、火星プロジェクトの可能性を見い出したことから、がぜんやる気に。ISRO幹部の反対を押し切り、火星ミッションに着手します。
ところが、期待されていないプロジェクトへ配属されてきたのは、経験の浅い人材ばかりでした。家庭問題に悩む妊娠中の女性設計士、NASAを目指す野心家の女性エンジニア、女性運が無い奥手の男性技術者、定年退職間近の老設計士など、壮大なプロジェクトの実現には頼りない面々でしたが、ラケーシュは前向きにプロジェクトに取り組み始めます。

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未熟な技術や低予算、天候の問題など、次々に訪れる困難をインドの“ジュガード”(創意工夫)の精神で解決していきます。その中心になるのが、鮮やかなインドの民族衣装サリーをまとった女性たちというのがこの作品の見どころでもあります。

彼女たちがプロジェクトもさることなら、女性ならではのプライベートやキャリアの悩みも軽やかに乗り越えていく姿がとても清々しい!

キャラクターのドラマチックなエピソードはフィクションでしょうが、不可能を可能にした奇跡の実話には、信念を貫き、前向きに生きることの大切さを改めて気づかされます。

インドで清潔な生理ナプキンの開発に成功した男性の実話を描き、スマッシュヒットを記録した『パッドマン 5億人の女性を救った男』(’18年)の主演・製作スタッフが再集結。

本作でも、インドの偉業を称えるとともに、観る者に希望と勇気を与えるインド映画の魅力を世界へ発信しています。


ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画 [ アクシャイ・クマール ]

レプリカント(2001)

アクション俳優ジャン=クロード・ヴァンダムが熱演
生まれたばかりのレプリカントの成長過程を追ったSFアクション


ローランド・エメリッヒ監督のSFアクション『ユニバーサル・ソルジャー』(’92年)、大ヒットを記録したタイムトラベルSFアクション『タイムコップ』(’94年)など、1990年~2000年代にかけて、肉体派アクション俳優として数々のアクション映画で活躍したジャン=クロード・ヴァン・ダム

本作は、ジャン=クロード・ヴァン・ダムが極悪非道の連続殺人鬼と、純粋無垢なクローンという対照的な2役を演じたSFアクションです。

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【ストーリー】
刑事のジェイク(マイケル・ルーカー)は子持ちの母親ばかりを狙う殺人犯“トーチ”の逮捕に執念を燃やしていましたが、志し半ばに辞職してしまいます。
一方、NSF(国家安全局)は現場に残されたトーチの頭髪から彼の複製(レプリカント)を創造し、その記憶を頼りにトーチの正体を突き止めるという極秘プロジェクトを進めていました。
しかし、生まれたばかりのレプリカントジャン=クロード・ヴァン・ダム)は赤ん坊同然で成長を促す必要がありました。その教育係に選ばれたジェイクはトーチのDNAをすべて引き継ぐレプリカントに対して、再び殺人鬼を創造したのではと懐疑的になり、レプリカントを徹底した厳しさで調教します。

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連続殺人鬼のクローンを再生し、その記憶とテレパシー能力をもとに犯人を追跡するというプロットの作品で、主演は肉体派俳優ジャン=クロード・ヴァン・ダム。典型的なSFアクションに終始する恐れも否定できない要素の中で、キャラクターの個性を際立たせ、意外にも(!)見応えある人間ドラマに仕上がっています。

極悪非道な人間と純粋無垢なレプリカントという、まったく対極にある2役を演じ分けたヴァン・ダム。アクション映画にこだわる肉体派俳優が、抑えきれない感情に驚き、戸惑い、苦悩する究極のキャラクターへとぐいぐい引き込む妙演を見せています。

ジェイクとの生活の中でレプリカント人間性が表れ、成長していく姿に主眼が置かれており、レプリカントのドラマとして見るとラストに爽快感が味わえます。

しかし、トーチを凶悪犯行に駆り立てる動機が甘いため、トーチを追い詰めるアクションとして見ると肩透かしを食らいます。

いずれにしろアクション俳優のヴァン・ダムがいつになく演技に力を入れているのが見どころ。香港出身のリンゴ・ラム監督が、自身のハリウッド進出作『マキシマム・リスク』(’96年)で見事なタッグを組んだヴァン・ダムから再び新たな一面を引き出しました。


レプリカント [DVD]

ラブソングができるまで(2007)

ヒュー・グラントの“微妙”な歌とダンスが楽しめる
明るく、前向きなロマンティックコメディ

ヒュー・グラントドリュー・バリモアが初共演したロマンティッコメディです。

とろけるような笑顔が魅力的なヒュー・グラントは1990年代~2000年代にかけて、“ロマコメの帝王”として女性から絶大な人気を誇っていました。

本作の日本公開時に、ヒュー・グラントはプロモーションで来日し、舞台挨拶を行いましたが、約2000人が詰めかけた会場の9割は女性客。ヒューが登場したときの大声援、その後もヒューの一挙一動に歓声が沸きおこるなど、大盛り上がりの舞台挨拶は、46歳になっても衰えを知らないヒューの人気を見せ付けました。

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【ストーリー】
忘れ去られた’80年代の元ポップスター、アレックス(ヒュー・グラント)が、カムバックのチャンスをかけ、作詞の才能を見込んだ元ライターのソフィー(ドリュー・バリモア)と組んで、人気アイドル歌手コーラ(ヘイリー・ベネット)のためにラブソングを作ることになります。
2人で作り上げた曲「愛に戻る道」はコーラに採用されましたが、コーラはその曲を自分好みにアレンジしてしまいました。これにソフィーは怒りますが、アレックスは穏便に済ませようとします。そうして、ソフィーとアレックスは決別してしまいます。

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まさにタイトルどおり、ラブソングができるまでを描いた物語です。

映画の見どころは、何と言ってもアレックスを演じたヒュー・グラントが歌とピアノ、ダンスを初披露していること。先述の舞台挨拶の際、ヒューは「歌は音程をはずしてもコンピュータで修正できるので楽だった。ピアノは特訓すれば弾けるようになった。でも、ダンスは話が違う。体で感じるのが難しい。酔っ払ったら踊れるという程度だよ」と、ダンスの話になると渋い表情を見せていましたが、それもそのはず、ヒューが披露するのは、’80年代のポップスター風のダンス。さわやかさとセクシーさをアピールしたダンスは、’80年代の女性ファンをメロメロにしたものの、数十年経って見てみると、ちょっとサムいです(;^_^A。

冒頭で流れるアレックスが所属した人気バンド“pop”のミュージックビデオは超必見。ミュージックビデオのアレックスは26歳という設定で、若作りして演じるヒューの姿は爆笑ものです。ヒュー曰く、「トップクラスのヘアメイクアーティストに頼んだけれど、どうやっても26歳に見えなかった。悪い娼婦が厚化粧しているみたいだった(笑)」とのことでした。

今後、歌とダンスのある作品に出演するかと聞かれて、「歌はやるかもしれないが、ダンスは勘弁」と苦笑交じりに答えていましたが、「ダンスが見たい!」「踊って!」という観客の声援に応えて、ほんの一瞬だけ、怪しい腰ツキのダンスを披露してくれました。でも、本当に恥ずかしそうな様子。そんなヒューの名(迷)ダンスは劇中でたっぷり楽しめます。

ビジュアル系のポップスターが登場し、ノリの良いサウンドが流行した’80年代のミュージックシーンを茶化した痛快なコメディですが、愛を語る言葉がちりばめられたロマンティックなラブストーリーでもあります。

アレックスが人気回復のためにラブソングを作る一方で、ラブソングを作ることで失恋の痛手から立ち直ろうとするソフィー。初共演のドリュー・バリモアについて、「太陽のようで明るく、周りのものすべて愛していて、ポジティブな女性」とコメントしたヒュー。すぐさま「僕とは真逆だよ」と笑っていましたが、劇中のアレックスとソフィーも実に対照的で、二人のユーモラスな掛け合いも見どころです。

仕事や恋愛につまづいた二人の男女が、衝突を繰り返した末に作り上げた究極のラブソングとは……。

シニカルですが、とってもキュートな大人の遊び心にあふれた映画です。‘80年代の洋楽を知る人ならより楽しめるでしょう。


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ラブソングができるまで (字幕版)

ワルキューレ(2008)

トム・クルーズ主演のサスペンスアクション
実在したヒトラー暗殺計画の壮絶な顛末

史上最悪の独裁者ヒトラー暗殺計画を企てたのは、誇り高きドイツの軍人たちでした。

実在のドイツ軍大佐シュタウフェンベルクの下、決行された奇想天外なヒトラー暗殺計画ワルキューレ作戦〉の顛末を壮大なスケールで描いたサスペンスアクションです。

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【ストーリー】
第二次大戦末期。ドイツの敗戦が濃厚となるなか、ヒトラー独裁政権に反旗を翻したシュタウフェンベルク大佐(トム・クルーズ)は、最前線での戦闘で連合軍の空襲を受けます。一方、ドイツ軍幹部や高級官僚で組織されたレジスタンスの中心メンバー、トレスコウ少将(ケネス・ブラナー)が実行したヒトラー暗殺計画が未遂に終わります。
その後、レジスタンスは瀕死の重傷から回復したシュタウフェンベルクを仲間に迎えます。シュタウフェンベルクは、既存の反乱軍鎮圧計画〈ワルキューレ作戦〉を逆手に取り、ヒトラーを暗殺後、ナチス政府を転覆させようと画策します。

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1944年7月20日、軍の作戦会議に出席したシュタウフェンベルクが小型爆弾でヒトラーを暗殺。しかし、暗殺の成功に確信のもてないオルブリヒト将軍(ビル・ナイ)は、ワルキューレ作戦の発動を躊躇し、作戦は大きく狂ってしまいました。

極悪非道のヒトラーナチス兵士たちを敵に回した命がけの作戦に携わる者たちの、緊張感と恐怖は並大抵のものではありません。

さまざまな人物の連携プレイにより可能になる複雑なワルキューレ作戦が、意図的や偶発的な事柄により、二転三転する過程がスリリングに描かれます。

ヒトラーの生死が謎に包まれ、ナチスドイツの出方が終盤までつかめない展開は緊迫感に溢れています。劇的な終幕はたとえ史実を知る者でも驚愕するでしょう。

ナチスドイツと勇敢に戦った男たちの強烈な生き様をスクリーンに焼き付けたのは、『ユージュアルサスペクツ』『X-MEN』シリーズのブライアン・シンガー監督。

確固たる信念で作戦を指揮するアイパッチの将校、シュタウフェンベルクトム・クルーズが好演しています。


ワルキューレ DVD

ボヘミアン・ラプソディ(2018)

音楽、自由、そして愛を貪欲に求めた
フレディ・マーキュリーの激動の人生

イギリスの人気ロックバンド、クイーンのボーカル兼ソングライターとして活躍したフレディ・マーキュリー。1975年にフレディが創り上げた『ボヘミアン・ラプソディ』は、クイーン屈指の名曲で、クイーンを伝説的存在に押し上げた1曲と言っても過言ではないでしょう。

ロックとオペラを融合した独創的で斬新な曲調が良いのはもちろんのこと、人を殺してしまった少年の懺悔のような衝撃的で難解な歌詞からは、自由を渇望しながらも、ままならない人生を生きていくことへの苦悩と葛藤がひしひしと伝わり、深く胸に迫ります。

その曲名をタイトルにした本作は、クイーンの成功の裏に秘められた、孤高の天才フレディの光と影を明らかにしています。

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【ストーリー】
1970年代初頭のロンドン。ゾロアスター教徒ペルシャ系移民の青年ファルーク・バルサラ(ラミ・マレック)は空港の荷物運搬員として働きながら、音楽の道を志していました。ある日、ファルークはファンだったアマチュアバンド「スマイル」のギタリスト、ブライアン・メイ(グウィリム・リー)とドラマーのロジャー・テイラーベン・ハーディ)に見事な歌声を聴かせ、ヴォーカリストとして加入します。さらにベーシストのジョン・ディーコン(ジョゼフ・マゼロ)を加え、ファルークが名付けた「クイーン」として新生バンドの活動をスタートさせます。そして、ファルークは厳格な父(エース・バディ)の目の前で、自らを「フレディ」と名乗ることを宣言します。それは、自らの出自との決別でした。

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移民差別を受けてもなんのその、若い頃からフレディは相当の自信家で野心家だったことが伺えます。

ワゴン車1台で各地のライブハウスをめぐる“どさ周り”のようなツアーを嫌ったフレディは、ワゴン車を売却して自主アルバムを制作することを提案。そして、オリジナルの音楽を作るために行った、はちゃめちゃなレコーディングの様子がEMIのA&Rジョン・リード(エイダン・ギレン)の目に留まり、見事デビューを果たします。

革新的なクイーンは人気を博し、世界ツアーを行い、フレディは恋人のメアリー(ルーシー・ボイントン)と婚約。ヒット曲『キラー・クイーン』を超えるために、フレディが満を持して作った『ボヘミアン・ラプソディ』は突飛な展開と6分間の長尺により、シングル化をめぐり、EMI幹部と対立したものの、フレディの奇策が功を奏し、大ヒットを記録。クイーンの人気を不動のものとし、フレディは充実した人生を手に入れたかに見えました。

しかし、EMIのマネージャー、ポールと出会い、ゲイという自らのセクシャリティに気づいたフレディは不安定になっていきます。

メアリーとの別れ、愛する家族を持つメンバーとの溝。仲間たちとの決別を招いたソロ活動は想像以上に重圧がのしかかり、フレディは孤独や不安を紛らすように酒や薬、男性の愛人たちを求めます。そして、その先には不治の病が待ち受けていました……。

物語後半、溢れんばかりの才能を持ちながら、自らの存在に悩み続け、転落していくフレディの姿は、皮肉にもボヘミアン・ラプソディ』の歌詞を体現しているかのようです。しかし、自らの死を受け入れたフレディは自らを取り巻くすべてのことを受け入れ、限りある命のゴールに向かって駆け出していくのです。

映画のクライマックスは、そんなフレディの前向きな決意表明にふさわしい舞台が用意されました。それは、1985年に開催された20世紀最大のチャリティコンサート「ライブエイド」のステージ。フレディ自身が圧巻のパフォーマンスを繰り広げた伝説のライブを、主演のラミ・マレックが渾身の演技で再現しています。

エジプト系のラミ・マレックはファミリー・エンターテインメント映画『ナイト・ミュージアム』シリーズで「展示物」の若きエジプト国王アクメンラーに扮するなど、そのエキゾチックな風貌が特徴的ですが、本作では顔や体型、しぐさや動きまで、見事にフレディになり切っていて、本当に驚かされます。

アカデミー賞主演男優賞に輝いたマレックのほかにも、穏やかな面差しのブライアン・メイなど、クイーンのメンバーを演じた俳優たちはみんなどことなく本物に雰囲気が似ており、物語をリアルに感じさせる俳優たちの演技は本作の見どころの一つです。

監督は『ユージュアル・サスペクツ』(’95年)、『X-MEN』シリーズ(’00年~’16年)のブライアン・シンガーフレディの激動の人生を、クイーンの名曲の数々をちりばめながら、テンポよく描き、見応え十分です。

特に、ライブエイドシーンでの『ボヘミアン・ラプソディ』からの『レディオ・ガガ』、『伝説のチャンピオン』、そして、エンドロールの『Don’t Stop Me Now』まで、クイーンの楽曲を畳みかけたラストが爽快です!

それにしても、フレディが45歳の若さで逝ってしまったことが改めて悔やまれます。圧倒的な歌声と、奇抜なのに心に沁みるメロディ、そして、厳しい人生を生きる人々に寄り添う歌詞――。さまざまな人生経験を乗り越えたフレディの作る楽曲をもっと、もっと聴きたかったです。


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キネマの神様(2021)

いつの時代も映画は希望の光
山田洋二監督の映画への熱い思いが滲む

2020年に全世界で突如発生した新型コロナウイルスの脅威は、多くの人々の人生に少なからぬ影響を与えました。生活や仕事環境が激変し、本当に悲しいことなのですが、命を奪われてしまった方もいます。

エンターテイメント業界も、“不要不急”という解釈の下、映画や舞台、コンサートなど、人を集めた興業が完全に中止になり、苦況に立たされました。

本作も、コロナ禍で大きな影響を受けた作品の一つと言えるでしょう。既にクラインクインしていた撮影は中止になり、公開は当然、延期されました。そして、何より、ダブル主演の1人だった志村けんさん新型コロナウイルス感染により、急逝してしまいました。

コントを愛する志村さんはコメディアンの矜持を貫き、俳優業をほぼ断り続けていたものの、山田洋二監督の熱いオファーを受け、映画初主演を決めたそうです。役柄は、過去の痛みを抱えた元映画監督助手の老人・ゴウでした。

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【ストーリー】
2019年。円山歩(寺島しのぶ)は離婚後、一人息子の勇太(前田旺志郎)を連れて、実家に戻り、両親のゴウ(沢田研二)と淑子(宮本信子)と暮らしていました。歩と淑子は昔からゴウの借金問題に悩まされており、ついにゴウのキャッシュカードを取り上げてしまいます。行く当てのないゴウは、淑子が勤める映画館「テアトル銀幕」に出かけ、顔なじみの館主・寺林(小林稔侍)からリバイバル映画のフィルムチェック試写に付き合うことに。その映画を観るうちに、ゴウは若き日々を思い出します。

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映画への思いが強すぎたことが災いし、映画界を去ってしまったゴウは、無類のギャンブル好きで常に借金を抱え、妻・淑子や娘・歩に迷惑をかけてばかりの人生を送っていました。そんなダメダメな偏屈老人・ゴウが、かつて自身が書いた映画脚本『キネマの神様』を蘇らせることで、人生に希望を取り戻す姿が描かれます。

熱い思いを悪事で隠す、“憎みくれないろくでなし”とも言うべきゴウは「志村さんにぴったり!」と思わざるを得ません。本当に惜しまれますが、志村さんの面影を背負って、役を引き受けた沢田研二も、深みのある演技を見せています。

原田マハの同名原作を山田洋二監督が脚色した本作には、監督自身の映画への熱い思いが溢れています。

本作の見どころは、ゴウの過去を解き明かす形で描かれる、約50年前、昭和の映画撮影所を再現したシーン。自分の脚本で監督することを夢見る若き日のゴウ(菅田将暉)の希望に満ちた、活気ある日々が描かれます。

ダブル主演の1人、菅田将暉のほかにも、食堂の看板娘で撮影所に出入りする若き淑子(永野芽郁)や、人気女優の桂園子(北川景子)、ゴウの師匠の映画監督・出水(リリー・フランキー)など、現代の人気者たちが古き良き昭和の映画の住人になり切っています。

2人の女優陣は、昭和の映画特有の早口で活舌の良い俳優たちの語り口を見事に再現。さらに、整った顔立ちで気風のいい北川景子はその持ち味を発揮し、往年の銀幕スターを貫禄たっぷりに演じています。

松竹映画100周年記念に製作された本作は「映画が果たしてきた役割に光を当てている」と言えるでしょう。昭和30年~40年代は一番の娯楽として、戦後復興をめざす人々に勇気と希望を与えてきた日本映画。それは今なお、続きます。コロナ禍に苦しむ現代の人々にも……。

なお、本作の公式サイトも見どころの一つです。トップ画面には、バラ色のスクリーンの中で微笑む志村けんさんのイラストが掲載されています。その穏やかで楽しそうな笑顔に胸が熱くなります。

“いつの時代にも、どんな状況でも映画は希望の光”。そんな温かく、優しいメッセージが伝わってきます。

movies.shochiku.co.jp


キネマの神様【Blu-ray】 [ 沢田研二 ]


キネマの神様

リトル・ミス・サンシャイン(2006)

団結したくても、なぜかできない?!
個性的過ぎる「負け組」一家のドタバタ旅行

人生が思いどおりに行かずに落ち込んでいる人はぜひ見てほしいです。必ず立ち上がる勇気と希望をもらえるから。

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【ストーリー】
フーヴァー家の長女オリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)が美少女コンテスト〈リトル・ミス・サンシャイン〉に参加することになり、家族揃って開催地カリフォルニアに向かいます。とはいえ、人生をかけたビジネスの結果が気になる父リチャード(グレッグ・キニア)、家族が大嫌いな15歳の兄ドウェーン(ポール・ダノ)、自殺未遂を図った母シェリル(トニ・コレット)の兄フランク(スティーブ・カレル)など、気乗りのしない面々が乗り込んだバスの旅は、毒舌家の祖父エドウィンアラン・アーキン)が火付け役となり、衝突ばかり。それでもひたむきに夢を追うオリーヴのために旅を続ける一家が、旅の途中で、大きな挫折と絶望を味わいます。

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ハリウッド映画でよく描かれる家族の再生物語ですが、家族みんなが、いわゆる「負け組」というのがこの作品の良いところです。

衝突、挫折、絶望がつなぐ家族の絆。その最大の功労者はオリーヴです。圧倒的に「負け」が予想されるコミカルな風貌のオリーヴがありのままの姿でコンテストに挑む姿はおかしくも胸を打ちます。

「負け」を恐れることなかれ。負けたからこそ生まれる希望もあるのです!

オリーヴを演じた10歳の子役、アビゲイル・ブレスリンは米アカデミー賞助演女優賞ノミネートを始め、数々の映画賞を受賞。天才子役として、ヒューマンドラマを中心に数々の作品に出演し、印象的な役を演じています。


リトル・ミス・サンシャイン【Blu-ray】 [ アビゲイル・ブレスリン ]


リトル・ミス・サンシャイン (字幕版)