映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

プライスレス 素敵な恋の見つけ方(2006)

お金じゃ買えないロマンティックな愛の物語
“ちょい悪”オドレィ・トトゥのフレンチ・ラブコメ

アメリ』のオドレィ・トトゥ主演のフレンチ・ロマンティック・コメディです。


玉の輿に乗るために、女を武器に裕福な男性を誘惑する美女と、そんな悪女に恋をした冴えないホテルのボーイの奇妙な恋の行方が描かれます。

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【ストーリー】
フランス南西部の高級ホテル。年上の恋人と滞在していたイレーヌ(オドレィ・トトゥ)は、成り行きでリッチな滞在客のふりをしたジャン(ガド・エルマレ)と意気投合し、熱い一夜を過ごします。
しかし、この火遊びが恋人にばれて、イレーヌの婚約は破棄に。すぐにジャンへ乗り換えようとしたものの、彼がホテルのボーイだと知ったイレーヌは、激怒してホテルを去ってしまいます。
ところが、ニースで、新たに裕福な男探しを始めたイレーヌの前にジャンが現れます。ジャンはイレーヌに恋をしてしまったのです。

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男に金を払わせ、高級品を買いまくる性悪なイレーヌと、貯金をはたいてまで彼女の愛をつなぎとめようとする健気なジャンとの駆け引きは、ジャンにも裕福な未亡人のパトロンができたことから、意外な展開を見せます。

イレーヌのそばにいるために未亡人とホテルに留まるジャンに対して、イレーヌはパトロンとの過ごし方の極意を伝授。2人はパトロンの愛人という共通点から親密になっていきます。

「お金がすべて」のイレーヌが、本当の愛を見つけるまで。「愛こそすべて」という普遍的なテーマがフランスらしく、エレガントかつ、さりげない皮肉を交えて描かれます。

粋で洗練されたストーリーに加え、南仏の高級ホテル、一流ブランドのドレスやアクセサリー、そして、愛らしいオドレイが、スクリーンを華麗に彩り、映像的にも楽しめます。


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マスター・アンド・コマンダー(2003)

雄大な海原で繰り広げられる海の男たちの戦い
ラッセル・クロウがカリスマ艦長に魂を吹き込む

原作は英国海軍ジャック・オーブリーが活躍する『オーブリー&マチュリン』シリーズ。元々娯楽冒険小説なのだから、ワクワクハラハラするだけの娯楽アクションと思いきや、大海原での戦いに挑む海の男たちのドラマは格調高く、味わい深いです。

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【ストーリー】
舞台はナポレオン戦争中の1805年。フリゲート艦サプライズは、ラッキー・ジャックこと名艦長ジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ)指揮の下、仏海軍の強力な私掠船アケロン号の拿捕命令を受けていました。
しかし、アケロン号はサプライズよりも、速度もまた艦の規模も勝っており、アケロン号との最初の戦いで、サプライズは甚大な被害を被ってしまいます。

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描かれるのは、宿敵の仏軍艦アケロン号を追う英国海軍フリゲート艦サプライズ号の航海の日々。カリスマ的なジャック艦長のもと船員たちは一丸となって戦いますが、敵は仏軍だけではありませんでした。気まぐれな自然や艦内の閉塞的な状況など、さまざまな脅威が船員たちを襲います。

ジャックを演じるラッセル・クロウさすがにいい味を出しています。戦いに貪欲な野心家の面もあれば、若い士官候補生には厳しくも優しい態度で軍人の誇りを伝える二面性が人間味を感じさせます。

帆船による勇壮なアクションシーン、長引く戦況が引き金となって起こる人間ドラマも見応えがあります。

原作の大ファンという『いまを生きる』(’89年)、『トゥルーマン・ショー』(’98年)のピーター・ウィアー監督が丹精込めた作品です。

‘80~’90年代にかけて、優れたヒューマンドラマを手がけてきたウィアー監督ですが、本作を最後に映画監督作品は無いようで、本当に残念です。

なお、本作は2004年度の米アカデミー賞で10部門にノミネートされ、そのうち、撮影賞と音響効果賞を受賞しました。

そして、今年(2021年)、本作の新作が企画されていると報じられました。小説シリーズの第1作「新鋭艦長、戦乱の海へ」をベースに、艦長に就任した若き日のジャックの活躍と、本作でポール・ベタニーが演じたスティーブン・マチュリン軍医との出会いが描かれるそうです。

ラッセル・クロウの再登板があるのか、気になるところです。


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ポセイドン(2006)

オリジナル版の魂も海の底へ消えたのか?
名作『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイク版


リメイク作品がオリジナル作品を超えることはなかなか難しいです。それでも、製作者たちはリメイク作品に果敢に挑戦します。

オリジナルとなる『ポセイドン・アドベンチャー』は1972年に製作されたパニックアクションの元祖と呼ばれ、未見ならぜひ観ることを薦めたい名作です。

本作の結果は一体どうだったのでしょうか?

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【ストーリー】
晦日の夜、豪華客船「ポセイドン号」には、4000人を超える多くの客が乗り、盛大なパーティが行われていました。
しかし、新年を迎えた直後、ポセイドン号は突如現れた異常波浪による巨大な波の直撃を受け転覆してしまいます。まっ逆さまに転覆したポセイドン号から数名の乗客が脱出しようと試みますが、海上にあるのは船底という状態で、出口などわかるはずもなく、なんとか見つけた行く手にはいくつもの危機が待ち受けます。

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オリジナル版では、脱出の過程で、人々が懸命な努力もむなしく命を落とす数々のシーンが見どころとなりますが、そこにはご都合主義の死はひとつもありません。以降、ハリウッドの十八番となるパニックアクション映画にいかにその要が欠落しているか。このリメイク版ではオリジナルの肝である極限下の人間ドラマを期待していましたが……。

脱出を導く正義漢の元ニューヨーク市長、孤独を抱えた中年男性、幼い少年、自分本位のギャンブラー、道案内役のウェイターなど、オリジナル版を彷彿させるキャラクターもいますが、登場人物はまったく新しい設定です。

ストーリー展開も然り。大筋は同じですが、枝葉のエピソードはまったく違います。大晦日の夜の華やかなパーティが一転、シャンデリアのきらめくボールルームがまっ逆さまになり、人々が落下していく惨劇、その後繰り広げられる脱出賛成派と反対派の争い、脱出を拒み留まった者たちの悲劇、そして水や炎が容赦なく襲う脱出遂行者たちの受難など、オリジナルを知っていれば、思い当たるシーンは数々ありますが、描き方があまりに味気ないのです。

CG技術により危機的状況の迫力は満点で、オリジナル版を知らなければ、パニックアクション映画として十分に楽しめますが、オリジナルファンには物足りないでしょう。

オリジナルには死ぬ一歩手前の極限状態に置かれた人々のリアルな反応が丁寧に描かれ、ひとつの判断違いも許されない彼らの緊張や恐怖がひしひしと伝わってきました。

この映画の脱出劇で描かれるべきは、ヒロイックな行動への賞賛ではなく、生き延びるためとはいえ、不可能に挑戦することに伴う代償や犠牲です。オリジナルで描かれた犠牲は大きな衝撃でしたが、リメイク版では痛くも痒くもないように思えます。

映像は迫力がありますが、かの名作が無益で凄惨な死の洪水を捉え続ける、パニックアクションの典型に留まったのはとても残念です。


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花束みたいな恋をした(2021)

自然でリアルな会話劇で描き出す
切なくもピュアなラブストーリー

高視聴率を記録したトレンディドラマ『東京ラブストーリー』や、母娘の絆を衝撃的な設定で問いかけたヒューマンドラマ『Mother』、他にも『最高の離婚』『西遊記』『Woman』など、多彩なテーマで記録と記憶に残る連続テレビドラマを生み出してきた脚本家・坂元裕二が、映画用に初めてオリジナル脚本を書き下ろした注目作です。

20代の実力派俳優、菅田将暉有村架純の共演も楽しみな本作は、一組の20代の若者のラブストーリーです。

2人の男女が出会い、惹かれ合い、結びつき、反発し、道を違えて別れる……。誰にでも一つや二つはあるはずの恋愛譚をありふれた日常として描き出しています。

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【ストーリー】
2015年、大学生の絹(有村架純)は強引な誘いを断り切れず、大好きなお笑いコンビ、天竺鼠のライブを見損ねたり、終電を逃して朝帰りしたりと、ちょっと冴えないこともあるけれど、普通の日常を送っています。
一方、大学生の麦(菅田将暉)もまた、googleストリートビューに自分が映っているのを見つけて喜んだり、憧れの女性の先輩からカラオケに誘われるも、行ってみるとその先輩はいなかったりと、浮き沈みはあるけれど他愛のない日常を送っています。
そんな2人が明大前駅で終電を逃したことから出会います。ひょんなことから、「押井守が好き」という共通点を発見した2人は居酒屋で語り合ううちに、さらに多くの共通点を発見して意気投合。その後、数回のデートを重ねて交際を始めます。

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ごく普通の男女、絹と麦の21歳から26歳までの5年間の軌跡を描くストーリーで起こる出来事は本当に普通のことばかり。些細なことでも楽しい同棲生活や、夢をあきらめた社会人生活など、多くの人が経験しそうな人生の機微を淡々と描いていきます。

そんなシンプルなストーリーを見応えのあるものにしているのは、リアリティにこだわった会話です。

実在の芸能人や作家、書籍やゲームなどの話で盛り上がる2人は本当に普通のキャラクターに見え、だからこそ、人生の転換期で悩む2人にどっぷり感情移入させられます。変幻自在の菅田と素朴な有村が好演し、ほぼ絹と麦の2人劇を飽きさせません。

監督は『愛していると言ってくれ』『ビューティフルライフ』『逃げるは恥だが役に立つ』など、TBSの名作テレビドラマを製作してきた土井裕泰。坂元の人気作『カルテット』も手掛けています。

学生から社会人へと移る20代。甘酸っぱさとほろ苦さが入り混じる20代ならではの心の移ろいを留め、ピュアな気持を呼び覚ましてくれる作品です。


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永遠の門 ゴッホの見た未来(2018)

孤高の画家ゴッホの謎めいた生涯と創作の秘密に迫る
圧倒的な映像美で魅せるアートエンターテイメント作

美術史上最も人気の高い画家の一人として知られる、印象派の巨匠フィンセント・ファン・ゴッホ

しかし、彼の作品が世に認められたのは、彼の死後のことで、そんな不遇な境遇も、ゴッホが人々の心を捉える一因ではないでしょうか?

本作では、代表作「ひまわり」を始め、自然をモチーフにした色彩豊かな名画を生み出す一方で、衝撃的な耳切事件を起こすなど、心の闇を抱えたゴッホ37歳で謎の死を遂げるまでの激動の10年間が描かれます。

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【ストーリー】
パリで認められなかったゴッホウィレム・デフォー)は、27歳の時に、親友の画家ゴーギャンオスカー・アイザック)の勧めに従い、南フランスのアルルへ向かいます。そこで美しい自然に出合い、感動したゴッホは、意欲的に創作活動に打ち込むことに。
ところが、地元の人々とのトラブルや、同居を始めたゴーギャンとのいさかいなどから、ゴッホはたびたび精神を病んでしまいます。周囲からは危険人物とみなされ、ゴーギャンにも去られ、絵がまったく売れない、孤独で絶望的な日々の中でも、ゴッホは自分の使命を信じ、情熱的に絵を描き続けます。

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監督・共同脚本は、『バスキア』('96年)、『潜水服は蝶の夢を見る』('07年)などを手がけたジュリアン・シュナーベル。画家として活躍した後、映画監督となった偉才による、こだわりの映像世界が堪能できます。

特に、ゴッホにインスピレーションを与えた、美しく、心地よい自然の光景は必見。シュナーベルを含む画家チームが描いた130点ものゴッホの絵画も登場します。

主演のウィレム・デフォーは63歳でありながら、27歳~37歳までのゴッホ役に挑戦。闇が深いゴッホの複雑な心情を繊細かつ情熱的に表現し、2018年度の第75回ヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞するなど、高い評価を受けました。

悩めるゴッホがなぜ素晴らしい作品を描くことができたのか。不遇なゴッホに丁寧に寄り添ったスタッフ、キャストの温かい心が生み出した至高のアートエンターテイメント作品です。

本作で実りある芸術の秋を楽しんでほしいです。


永遠の門 ゴッホの見た未来 [ ウィレム・デフォー ]


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G.I.ジェーン(1997)

デミ・ムーアが孤高の女性海軍大尉に!
女性の底力を見せるサバイバルアクション

ゴーストになった、見えない恋人との切ない愛を描いた傑作ラブストーリー『ゴースト/ニューヨークの幻』(’90年)で世界的なブレイクを果たしたデミ・ムーア。『ゴースト~』の大ヒットはストーリーの面白さもさることながら、ショートカットのデミ・ムーアがとってもキュートだったからだと思います。

一躍スター女優になったムーアはその後、1991年から1997年の本作まで、毎年、主演作や主演級の作品に出演しましたが、実はそのうち、5度ゴールデンラズベリー賞の最低主演賞候補になり、受賞も3度しています💦。

『ゴースト~』のキュートな面影もどこへやら、斬新な切り口で描かれた女性像を演じてきたデミ・ムーア女優魂はついに米海軍の扉を叩きました。

本作でデミが扮するのは、湾岸戦争へ志願するほどの強い意志をもった女性将校オニール大尉です。

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【ストーリー】
アメリカ海軍情報局に所属するジョーダン・オニール大尉(デミ・ムーア)は性差別撤廃を政治政策にする野心家の女性議員(アン・バンクロフト)によって、男の牙城SEAL(海軍エリート偵察部隊)の訓練テストに送り込まれます。そこは男性でも60%が脱落する地獄の訓練プログラムでした。
オニールはたった1人の女性だったことから男性たちから蔑視されますが、頭を刈って坊主になり、男性隊員たちとともに過酷な訓練に挑みます。
そんな彼女はマスコミの恰好のネタとなり、“G.I.ジェーン”と書き立てられます。さまざまな試練が彼女を襲い、めげそうになる時もありましたが、突如、実戦に参加するチャンスがやってきます。

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原案は女流作家ダニエル・アレキサンドラ。そして企画段階からデミも製作にかかわっており、並みいる男性たちを相手に孤軍奮闘するヒロインの物語は女性たちの手で創り出されたものでした。

しかし、決して性差別の撤廃を声高に唱えた女性讃歌ではありません

脚本は『逃亡者』(’93年)のデビッド・トゥーヒー、監督にはリドリー・スコットを起用し、地獄の訓練だけではないヒロインを苦しめる状況をリアルに、そしてシニカルに描いています。

一歩間違えばデミ・ムーアのプロモーションビデオにもなりかねない題材ですが、リドリーの造形の深い女性描写に助けられ、女性2人の華麗な逃避行を描いた秀作ロードムービーテルマ&ルイーズ』(’91年)を彷彿させる爽快な作品に仕上がっています。

オニールに壮絶なしごきをするウルゲイル曹長に『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのアラゴルン役でブレイクする前の、ヴィゴ・モーテンセンが扮しています。

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と、私はなかなか楽しめたのですが、本作でも、ゴールデンラズベリー賞最低主演女優賞に輝いてしまいました💦。(それもむべなるかなと、思わせる部分もあるのですが……。)


G.I.ジェーン [ ヴィゴ・モーテンセン ]

エレジー(2008)

35歳も年の離れた大学教授と教え子の恋
真実の愛に探す大人のためのラブストーリー

『死ぬまでにした10のこと』(’03年)のスペインの女流監督イザベル・コイシェ監督作。

35歳も年の離れた大学教授と教え子の愛の行方を描いた大人のラブストーリーです。

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【ストーリー】
初老の大学教授ディビッド(ベン・キングスレー)は自由な恋愛を謳歌する快楽主義者。私生活では、不貞の末に離婚し、一人息子ケニー(ピーター・サースガード)に軽蔑されています。一方、仕事では、文学者として名声を獲得し、情事を楽しむだけの相手キャロライン(パトリシア・クラークソン)もいます。
美しい教え子のコンスエラ(ペネロペ・クルス)を誘ったのもほんの遊びのつもりでしたが、意外にも2人は体とともに心も深く結ばれるようになっていきます。

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コンスエラを愛したことで、ディビッドは愛に伴う苦悩や葛藤に直面し、これまでの不埒な恋愛観を根底から覆されます。

コンスエラを独占したいという自身の欲望や、永遠に続く深い愛を求めるコンスエラの願望に戸惑うディビッドの姿が描かれます。

互いの恋愛観や立場が障害となり、思いを遂げられないディビッドとコンスエラを中心に、図らずも不倫愛に走るケニーや、キャリアウーマンのキャロライン、そして、デイビッドの女好きの親友ジョージ(デニス・ホッパー)など、愛の迷宮に入り込んだ大人の男女それぞれの選択を通して、「人を愛すること」についてじっくりと考える機会を与えてくれます。


エレジー [DVD]