映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

ザ・ビーチ(2000)

デジタル世界から脱出した現代の若者が
幻の楽園ビーチで見つけた心の闇

バックパックひとつで活気と倦怠がほどよくブレンドされた国タイへやって来たアメリカ人青年リチャード。それは〈冒険〉と〈刺激〉は心の治療薬とばかりに、コンピュータやテレビゲーム、インターネットに浸食された仮想的な電脳社会から抜け出す旅でした。

しかし、青い海と白い砂浜に囲まれた、幻の楽園といわれる〈ビーチ〉は狂気の世界にほかならず、そこで見つけたものは、自らの真っ黒な心の闇だったのです――。

ヘロイン中毒の若者たちの自堕落な日常をスタイリッシュに描いた『トレイン・スポッティング』(’96年)で世界を驚かせたダニー・ボイル監督が、今度は突如、電脳社会の渦に巻き込まれた我々現代人に向け、驚くべき人間心理を見せつけました。

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【ストーリー】
アメリカ人青年リチャード(レオナルド・ディカプリオ)は何かを求めるようにタイを一人旅していました。
ある日、安宿でダフィ(ロバート・カーライル)という奇妙な男に出会います。ダフィは伝説のビーチの存在をリチャードに明かしますが、翌朝、ビーチの地図を残して、変死してしまいます。
リチャードはダフィの話を不信に思いながらも、隣室にいたフランス人カップルとともに“夢の楽園”と語ったビーチを目指します。

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パソコン、携帯電話、インターネット……、’90年代後半からのデジタル化の波は本当に急激でした。〈本当にデジタル化っていいものなのか?〉。アナログで生きてきた人々は、そんな疑問に駆られながらも、未知の世界へ入っていかざるを得ませんでした。
(結果デジタル化により、便利な時代になりました。でも、多くの功罪を生みながら、未だに変化を続けています。一体、どこへ向かうのでしょうか……?)

そんなデジタル革命真っただ中の時代に、『ザ・ビーチ』は制作されました。

〈ビーチ〉とは観光客の絶対来ない孤島に作られた、自由と快楽だけを求めて文明社会を捨てた大人たち約30人のコミュニティのこと。

本作はそんな電脳世界から逃れ、美しくも、生々しい自然界で人間本来の生活を取り戻そうとした若者たちが、図らずも生み出してしまったサイコロジカルな世界が描かれています。

他者を排斥することによって理想郷を作るビーチは、実は“自由がない”という矛盾の中でリチャードは精神のバランスを崩し、やがてそこがリセット可能なテレビゲームの世界であるかのように危険な行為を繰り返します。

現代の若者を通して、人間社会にはびこる悪やひずみを鋭くえぐったダニー・ボイル監督の斬新な映像センスや、粋のいい音楽センスは本作でも如何なく発揮されています。

そして、『タイタニック』(’97年)で世界的ブレイクを果たしたレオナルド・ディカプリオの次作として注目された作品で、あどけなさの残るディカプリオの美少年ぶりも堪能できます。

ただし、舞台となったタイ・ピピ島の美しい景色は何度見ても素晴らしいです。

舞台となったタイ・ピピ島の美しい景色も見どころです。

とはいえ、ちょっぴり“イチャッテル”物語で、興行的にも不振だったようですが、夏になると美しいビーチの光景が観たくなります。


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ザ・ビーチ

ナミヤ雑貨店の奇蹟(2017)

〈人を想う大切さ〉が心にしみる
優しさにあふれたファンタジー

原作は東野圭吾史上、最も泣ける感動作」と評されるベストセラー小説。時代を超えて届けられる手紙が紡ぐ奇蹟を描く、優しさにあふれたファンタジーです。

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【ストーリー】
1970年代、心優しい浪矢(西田敏行)の営むナミヤ雑貨店は、悩み相談に答えてくれるということで、町の子どもたちの間で人気でした。
2012年、今は空き家となったナミヤ雑貨店へ、女性起業家の家に盗みに入った3人の若者、敦也(山田涼介)、翔太(村上虹郎)、幸平(寛一郎)が逃げ込んできます。
1980年、プロのミュージシャンを目指し、東京の大学を中退した松岡(林遣都)が祖父の葬儀のために故郷へ戻ってきます。魚屋を営む父(小林薫)の体調が良くないと知った松岡は夢を追うべきか悩み、ふと通りかかったナミヤ雑貨店に悩み相談の手紙を書くことにします。
同じく1980年、晴美(尾野真千子)は、恩人の窮地を救うため、金持ちの愛人になるか悩み、ナミヤ雑貨店に出紙を出します。するとそれらの手紙は、なぜか敦也たちの元へ届けられます。

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時代を超えて交わされる悩みと、その回答の手紙。相談者は将来に惑う若者たちで、持て余した悩みを、藁にもすがる思いでナミヤ雑貨店に相談します。

ところが、それらに答えるのは、養護施設で育った現代の若者たち。不幸な生い立ちから、世をすねる敦也が、厳しい回答を返したり、ピュアな幸平が励ましの回答を返したりと、いわば適当に返事しているのですが、回答を信じた相談者たちの行動は、さまざまな人々の人生に影響を与えていくことになります。

松岡や晴美、浪矢、シンガーソングライターのセリ(門脇麦)、そして敦也たちをメインにした5つのエピソードが描かれています。それぞれの人生が微妙に絡んでいることが徐々に明らかになる複雑な小説のプロットを的確に再現した脚本が秀逸です。

陰のある敦也を好演した山田涼介、温かみのある浪矢役でさすがの存在感を発揮した西田敏行ら、豪華俳優陣の味のある演技も絶妙です。

また、この映画版の見どころの一つは、小説で松岡が作曲した「REBORN」を誕生させたこと。山下達郎が書き下ろし、「生きていく意味を教えてくれた人」という印象的なフレーズから始まる同名主題歌は、〈人を想う大切さ〉が心にしみる楽曲に仕上がっています。


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U-571(2000)

潜水艦という密室を舞台にしたサスペンスアクション映画
ジョナサン・モストウ監督が仕掛けた独創的な展開にしびれる

鋼鉄の艦内、その巨大な姿を覆い隠すダークグリーンの海中、さらに常に攻撃態勢を整え、不気味にうごめく敵の潜水艦。二重三重の包囲網が内部にいる人間の精神を徐々に抑圧していきます……。

潜水艦映画の代名詞にもなったUボート』(’81年)を彷彿させるシチュエーションが展開する『U-571』。

上昇すれば敵の潜水艦の機雷の餌食となり、潜航すれば全員圧死という潜水艦の弱点が手に汗握るサスペンスを生み出しています。

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【ストーリー】
第2次大戦下、ドイツ軍が圧倒的なパワーでひとり勝ちを収める北大西洋上の戦いにおいて、アメリカ海軍はあるミッションを企てます。
それは、故障で味方の救助艦を待つため停泊しているドイツ軍の最新鋭潜水艦U-571に、味方を装って奇襲をかけ、独軍暗号機〈エニグマ〉を奪うというものでした。
ミッションには、実力がありながらも、ダルグレン大佐(ビル・パクストン)に認められずにジレンマを抱くタイラー大尉(マシュー・マコノヒー)を始め、エメット大佐(ジョン・ボン・ジョビ)、クロフ軍曹(ハーベイ・カイテル)らベテラン海兵士と無線技師、機関助手ら戦闘経験のない青年兵などが集められました。
綿密な計画で遂行された奇襲作戦は無事成功したかに見えました。しかし、アメリカ軍部隊の乗ってきた潜水艦S-33がドイツ軍の救助潜水艦により破壊されてしまい、部隊はU-571に逃げ込むことに。
そうして、操作も分からない、壊れかけたドイツ軍潜水艦U-571からの壮絶な脱出作戦が始まります。

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失敗作が少ないと言われる潜水艦映画には、海中と艦内というごく限られた空間しかないハンディを独創性で補った秀作が多いです。

U-571は偽装潜水艦であるために大海原で敵からも味方からも存在を隠さなければならないという状況はちょっぴり滑稽な気もしますが、独創性はピカ一でしょう。

第2次大戦中に実際に行なわれたエニグマ強奪計画という史実をモチーフにしたリアリティや、勝利に向かって邁進することと自らの信念との間にジレンマを感じていた若きタイラー大尉の人間ドラマは滑稽な状況を補ってあまりあります。

長編映画監督デビュー作『ブレーキ・ダウン』(’97年)でスピルバーグの再来”と評されたジョナサン・モストウ監督が2作目にして、製作費120億円の大作を任されましたが、ずば抜けた独創性を切れ味鋭い演出で見せます。モストウ監督は企画からかかわり、共同脚本も務めています。

舞台になったU-571は実物大の潜水艦レプリカがマルタ島に建造され、モストウ監督直々の要望で『Uボート』の艦内セットを造形したゴエス・ウェイドナーが本作でもセットデザインを手掛けています。


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怪談(2007)

捨てられた女の怨念に背筋が凍る
中田秀夫監督の本格ジャパニーズホラー

ハリウッドでも認められたジャパニーズホラーの第一人者、『リング』シリーズの中田秀夫監督による本格ホラー映画です。

無念の死を遂げた女の怨霊が惨劇をもたらす三遊亭円朝の傑作落語『真景累ヶ淵』を基に、日本の伝統的な “怪談”の恐怖を見事に映像化しました。

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【ストーリー】
江戸時代の深川。因縁でつながれた2人、三味線の師匠・豊志賀(黒木瞳)と、年下の煙草売り・新吉(尾上菊之助)が年齢や身分の差を超えて恋に落ちます。
豊志賀は世間の目も気にせず新吉に惚れこみますが、豊志賀に迷惑をかけていることを知った新吉は別れ話を切り出します。
しかし、豊志賀は聞き入れず、言い争いの最中、誤って片目の上を負傷してしまいます。傷はやがて大きな腫れ物となり、豊志賀は寝込むようになります。
そんな豊志賀を見捨てて、若い娘・お久(井上真央)と逃げようとしていた新吉に、豊志賀の死が告げられます。豊志賀は「女房を持てば、必ずとり殺す」という書置きを新吉に残していました。

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豊志賀の深い情念が怨念となり、新吉を取り巻く女たちの身に危険が及びます。

本作が映画初主演となった歌舞伎役者の尾上菊之助を始め、底知れぬ恐ろしさを秘めた怨霊となる黒木瞳や、悲惨な死に様を見せる井上真央など、実力派の俳優たちが新境地を見せる熱演で情念と怨念の渦巻く、おどろおどろしい世界の住人になりきります。

中田監督のツボを心得た恐怖演出は、さらに磨きがかかり、予期せぬ場面に恐怖描写が混入されています。それはもう、震え上がらない方が無理というほどの絶妙のタイミング。ヒヤッとしたい暑い夏には、絶対お薦め!

中田節が冴え渡ります。


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マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー(2018)

ABBAの名曲で綴られる母と娘の成長物語
明るく、楽しい、愛すべきミュージカル映画

人気ミュージカルを映画化し、大ヒットを記録したマンマ・ミーア!』の続編が10年ぶりに登場しました。

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【ストーリー】
ギリシャ・カロカイリ島。亡き母ドナ(メリル・ストリープ)との夢エレガントなホテルを完成させたソフィ(アマンダ・セイフライド)は、支配人のシエンフエゴス(アンディ・ガルシア)とともに、オープニングパーティーの準備に駆け回っていました。
しかし、ニューヨークでホテルビジネスを学んでいる夫スカイ(ドミニク・クーパー)が、仕事のオファーのために帰国を延期することに。ニューヨークでの仕事に魅力を感じるスカイと、母との夢にこだわる自分との間に溝を感じ、戸惑うソフィは若き日のドナに思いをはせるのでした。

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快活で夢と行動力に溢れたドナは、大学卒業後、世界へ飛び出し、カロカイリ島へたどり着きます。その道中に巡り会ったのが、ソフィの3人の父親候補たち。未来へのときめきや、ロマンティックなロケーション、そして若気の至りも手伝った、ドナの3つのロマンスが明かされます。

1作目のヒロイン、ドナの死から1年後を描く映画オリジナルのストーリーは、新たな道に向かう娘ソフィと、若き日のドナの物語です。

女性が社会へ出て、恋をし、母になる……、そんな期待と不安が入り混じった日々を、ポップでメロディアスなABBAの曲で綴っていきます。

前作では使われなかった曲が多く使われており、さまざまな女性の心情を表現したに改めて気づかされます。

すっかりダンスの定番となった、フラッシュモブを取り入れるなど、ミュージカルシーンはパワーアップ。特に前作で、メリル・ストリープが島中を駆け巡り、圧巻のパフォーマンスを見せた「ダンシング・クイーン」は、今回も突き抜けた爽快感が味わえるシーンになっています。

さらに、もれなく再結集した前作のキャストに加え、若き日のドナをはつらつと演じたリリー・ジェームズや、三者三様の若き日の3人の父親候補を演じるイケメン俳優たち、そして、ベテランの風格漂うアンディ・ガルシア、シェールら、俳優たちの妙演も見逃せません。

前作では、ゴールデン・ラズベリー賞を受賞してしまったピアース・ブロスナンなど、ミュージカルとは縁遠い俳優たちの渾身のパフォーマンスに、音楽界のレジェンド、シェールのダイナミックな歌唱。硬軟織り交ぜた、粋な仕掛け満載のミュージカルシーンが楽しい!

ストーリーはシンプルですが、ABBAの名曲と、陽光きらめくギリシャの島、『マンマ・ミーア』ファミリーともいうべき、愛すべきキャラクターは本当に魅力的。

どこまでも明るく、いつまでも微笑んでいられる、とてもハッピーな作品に仕上がっています。


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ザ・ロイヤル・テネンバウム(2001)

ちょっぴり“闇”気味の癖強めキャラたちがぶつかり合う
反面教師テネンバウム家に見る極上のヒューマンドラマ

人はだれも家族を選んで生まれてくることはできませんが、それでも家族は無条件に愛を注げる対象でしょう。だから家族に愛情を抱けないことほど哀しいことはありません。

ところが、身勝手な父ロイヤルを家長とするテネンバウム家は22年にわたり、その悲劇に見舞われていました――。

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【ストーリー】
性格の不一致を理由にロイヤル・テネンバウム(ジーン・ハックマン)が勝手に別居してから22年。妻エセル(アンジェリカ・ヒューストン)の再婚話をぶち壊すために家に戻ってきます。
「余命6か月」と嘘をついてエセルの同情をかったものの、彼から多大な影響を受けて成長した3人の子どもたち、長男チャス(ベン・ステイラー)、養女マーゴ(グゥイネス・パルトロウ)、次男のリッチー(ルーク・ウィルソン)はさまざまな反応を見せます。
兄妹たちはそれぞれの分野で、10代で成功し、天才児と呼ばれていましたが、それから20年後、それぞれの問題を抱えていました。

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家族の再生を描いたドラマは数々ありますが、これほど困った家族もいないでしょう。別居夫婦の絆、父子の確執、義姉弟の秘めた愛など、いびつな形で繋がりを求める家族の姿にじんわり熱いものが込みあげてきます。

ダージリン急行』(’07年)や『グランド・ブダペスト・ホテル』(’14年)など、超強烈なキャラクターたちが織りなす、ポップでシュールな世界観が人気のウェス・アンダーソン監督の3作目の長編映画。本作では米アカデミー賞脚本賞候補になるなど、デビュー当初は21世紀のハリウッドを担う逸材として注目されていました。

家族の絆がとことん崩壊した、いわば反面教師のテネンバウム家が悲劇的な状況に終止符を打つまでを描いた極上の家族再生物語です。

テネンバウム一家を演じる豪華キャストのほかにも、オーウェン・ウィルソンビル・マーレイ、ナレーターにアレック・ボールドウィンなどの演技巧者が集まり、 “癖強め”なヒューマンドラマを盛り上げています。


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シン・シティ 復讐の女神(2005)

鬼才ロバート・ロドリゲス監督ここに復活
とんでもなく刺激的なバイオレンス映画

かっこいい! 手足はもちろん、首も飛ぶ。肉体は切り刻まれ、内臓は噴き出し、男の急所は木っ端みじんに撃ち砕かれます!

猟奇的で痛すぎるシーンが満載された、とんでもないバイオレンス映画なのにもかかわらず、刺激的な映像世界に心酔してしまいました。

監督はハードアクション映画『デスペラード』で一躍脚光を浴びた鬼才ロバート・ロドリゲス。ほのぼのファミリー映画『スパイ・キッズ』シリーズを3作も作り上げ、路線変更を試みたのもほんのつかの間、本作でハリウッドの異端児ぶりに磨きをかけて復活しました。

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【ストーリー】
■エピソード1「ハード グッバイ」
強大な大男マーヴ(ミッキー・ローク)は酒場でゴールディ(ジェイミー・キング)という美女と出会い、ホテルで一夜を共にします。しかし、翌朝目覚めるとゴールディは死んでおり、警官が駆けつけてきます。マーヴはゴールディ殺しの罪を着せた犯人を突き止めようとしますが……。

■エピソード2「ビッグ ファイト キル」
過去の罪から逃れるために整形してシン・シティへ戻ってきた死刑囚のドワイト(クライブ・オーウェン)は無法地帯となった娼婦街を救おうとしますが、娼婦街を手に入れようとするマフィアに狙われてしまいます。

■エピソード3「イエロー バスタード」
老刑事ハーディガン(ブルース・ウィリス)は連続幼女殺人犯を追い詰め、少女ナンシーを救い出しますが、相棒のボブ(マイケル・マドセン)の裏切りにより連続幼女殺人犯の濡れ衣を着せられ、刑務所に収監されてしまいます。
しかし、数年後、大人になったナンシー(ジェシカ・アルバ)が狙われていることを知り、危険な敵「イエロー バスタード」に立ち向かうことに……。

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原作であるフランク・ミラーグラフィックノベルは、娼婦や犯罪者たちの住む裏社会シン・シティ(罪の街)が舞台とあって、絵もストーリーもハードボイルドなタッチが持ち味。だから、マジメに再現しようとすればするほど失笑を買いがちなハリウッド的アメコミ映画にしては絶対にいけない作品でした。

これまで映画化の話を断り続けてきたフランク・ミラーに対して、ロドリゲスはミラーを共同監督に起用することで、原作への「忠実性」を保証したそうです。そのために自身はアメリカ監督ギルドからの脱退を余儀なくされたそうですが、製作過程のルール無視は、何も独りよがりの映画を作ろうとするためのものではありません。

「忠実性」のために原作コミックの絵を直接CG処理した背景と、人間の俳優との完全デジタル合成により実現された映画版『シン・シティ』の世界。ラテン系のパワフルアクションが“おはこ”のロドリゲスも抑制を効かせた演出に終始します。

冒頭に挙げたように原作どおりの過激でグロテスクなバイオレンスシーンが連続するのですが、衝撃映像はキャメラワークやカラーリングにより、ことごとくぼかされており、決して観る者を不快な気分にさせることが監督の意図ではないと思います。

恐怖を忘れて目を奪われるのは、モノクロを基調にパートカラーを挿入した変幻自在の色彩の妙。アート性重視の姿勢は、版画のような様式美と称される原作コミックにも引けを取りません。

3人の男性キャラクター、シン・シティの最後の正義ハーティガン、傷だらけの純情マーヴ、クールな無骨者ドワイトを主人公にした3つのエピソードからなる哀愁漂う物語です。

ハーティガン、マーヴ、ドワイトはそれぞれ愛する女を守るために命をかけましたが、ロドリゲスもまたみずからの映像センスを守るために闘いました。

コミックが原作のため荒唐無稽な印象は免れませんが、無謀な戦いに挑む男たちの姿には、笑い以上にこみ上げるものがあります。

製作にはロドリゲス監督の盟友クエンティン・タランティーノが名を連ね、タランティーノ自身も一部のシーンを監督しています。

予測不能な男たちによる、超ワイルド&クールな世界は一見の価値ありです。


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シン・シティ(字幕版)