映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

100歳の少年と12歳の手紙

限りある人生を精一杯生きる
改めて見つめ直す“人生の意味”

死期が目前に迫った時の悲しみや苦しみは想像を絶しますが、そうなった時、人は何を考え、どう生きていくのでしょうか。この物語の主人公10歳の少年オスカーは、神に寄り添い、心を成長させることで、わずかに残された日々を謳歌しました。

ひたむきなオスカーが“長くて短い”人生の中で感じ、学んだ事は“人生の意味”を見失いがちな悩める現代人の心に深く響くはずです。

*****************************

【ストーリー】
白血病で入院中のオスカー(アミール)は余命わずか。そのため、小児病棟の教室でいたずらしても、先生は叱らないし、両親は我が子の姿を見るのが辛くて見舞いを避けることも。そんな彼を特別視する大人たちにオスカーは怒っていました。

真実を言えない大人たちと、不自然な彼らの態度に傷つき、反抗するオスカー。両者の苦悩がよく分かるだけに、やるせない冒頭から涙が止まりません。

周囲の大人に心を閉ざしたオスカーは、デリバリーピザの女主人ローズ(ミシェル・ラロック)とだけ会いたいと言います。元女子プロレスラーのローズは率直ですが口が悪く、偶然病院で出会ったオスカーにも悪態をつく始末。

しかし、オスカーは彼女が唯一、正直に接してくれる大人と感じたのです。

****************************

院長の依頼で、仕方なくオスカーの話し相手を務める事になったローズ。それは年末の12日間の約束でした。オスカーはローズの不注意で自分の死期が短い事を悟り落ち込みますが、ローズは「これからの1日を10年と考えて過ごすよう」提案します。そうすれば「12日間で120歳まで生きられるから」と。

ローズの提案に励まされ、10代、20代と1日ごとに成長していくオスカー。10代では思春期ならではの恋を経験。様々な病気の子供たちを交え、苦い恋の駆け引きを経験したオスカーは、意中の少女ペギー・ブルーと恋人同士になります。

20代はペギーと結婚、30代は夫としての責任を痛感し、40代では浮気、さらに両親との和解や老いなど、12日間の出来事を大人の視点で捉えるオスカーの姿が微笑ましくも、人生についてしみじみ考えさせられ、胸に迫ります。

各世代で直面する問題に悩むオスカーを励ますのは、ローズのプロレスラー時代のエピソード。どんなに屈強な難敵にもひるまず、知恵を絞り、勇気を出して戦うローズのプロレスシーンがコミカルで楽しいです。

少年の死を描く哀しい物語ですが、全体的に明るく、ファンタジックな雰囲気に包まれ、救われます。

人生の出来事と懸命に向き合ったオスカーが、図らずもやっていたのは毎日をしっかりと生きること。オスカーとの出会いを通して、人生を取り戻すローズの姿も感動的です。

監督は『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』のフランス人劇作家エリック=エマニュエル・シュミット。原作『神さまとお話しした12通の手紙もエリックが書いており、世界的ベストセラーを記録しています。


100歳の少年と12通の手紙 / 洋画


Amazonプライム・ビデオ

ネバーランド

ジョニー・デップが空想の世界を信じる劇作家バリを好演
永遠の少年の物語『ピーター・パン』の誕生秘話を明かす

大人になり、現実の厳しさに打ちのめされることもありますが、そんな現実とうまく付き合って生きていく方法があります。希望は叶うと信じること――。
純粋無垢な子供時代と違って、大人になるとなかなか難しいですが、劇作家ジェームズ・バリはその生き方を実践し、永遠の少年の物語『ピーター・パン』を書き上げました。

世界中で世代を超えて愛される『ピーター・パン』はバリと一組の家族との交流の中で育まれたと言われています。
この実話をもとにした戯曲をジョニー・デップ主演で映画化した『ネバーランド』では、多くの人に愛され続ける名作『ピーター・パン』誕生の背景にある人間ドラマが描かれます。

****************************************

【ストーリー】
1903年ロンドン。新作舞台の不評や、価値観の違う妻メアリー(ラダ・ミッチェル)との関係を愁い、失意に沈んでいたバリ(ジョニー・デップ)は散歩中の公園でデイヴィス家の4人兄弟と母親シルヴィア(ケイト・ウィンスレット)に出会います。
長男ジョー、次男ジャック、四男マイケルらが無邪気に興じる騎士ごっこに加わったバリは、ひとり遊びの輪から外れる三男ピーターの存在に気づきます。父の死以来、夢や希望を持つことをあきらめたピーターは、空想の世界にむなしさを感じていました。

****************************************

一家と親しくなったバリが持ち前の遊び心を発揮して、少年たちと興じるさまざまな〈ごっこ遊び〉が『ピーター・パン』の原点です。西部劇ごっこや海賊ごっこなど、遊びのシーンをバリの空想の世界として描く趣向がユニーク。現実世界では繊細なバリが、空想世界では生き生きとインディアンや海賊を演じています。この静と動のギャップをうまく演じきれるのは、カメレオン俳優のジョニー・デップだからこそ! 本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされました。

空想の世界を強く信じるバリの姿はピーターとともに大人たちへ影響を与えます。『ピーターパン』初演に立ち会った観客たち、不治の病に倒れたシルヴィア。夢の楽園ネバーランドで生き抜く永遠の少年には、希望を信じて生きたいと願った人々の思いが託されています。


ネバーランド [Blu-ray]


Amazonプライム・ビデオ

21g

21gの心臓が繋いだ3人の男女の皮肉な運命
命の“重み”と“尊さ”に改めて気づかされる

2003年に公開された、かなりディープな内容のヒューマンドラマ。映画監督デビュー作『アモーレス・ペロス』でカンヌ国際映画祭グランプリに輝いた、メキシコ出身アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの第2作です。

命の価値について考えさせる映画は数多いですが、これほど胸に迫るものがあったでしょうか。「21g」とは人間の心臓の重さだといいます。このわずか角砂糖8個の重さに過ぎない物体が消えたことで運命が一変した3人の男女。身を以って命の重さを知り、苦悩する彼らの姿を、息を詰めて見つめるしかありませんでした。

*****************************

【ストーリー】
交通事故があかの他人の3人を結びます。夫とふたりの娘を亡くした被害者の家族クリスティーナ(ナオミ・ワッツ)、事故の加害者ジャック(ベニチオ・デル・トロ)、クリスティーナの夫の心臓を移植されたポール(ショーン・ペン)。
命の恩人に会いたいと考えたポールが禁止されているドナーの家族を捜し出し、クリスティーナに近づいたことから思わぬ事態が起こるのですが、結末は早々に明かされます。
血まみれで倒れるポール、その傍らで泣き叫ぶクリスティーナ、その光景をじっと見下ろすジャック。フィルムはここに至るまでの3人の道筋を画期的なスタイルで描き出します。

*****************************

事故前から事故当日、事故後、そして結末までの三者三様の行動をドキュメンタリー風に捉えた映像が、細かく切り刻まれ、時間軸もストーリーの展開も無視してつなぎ合わされます。

シーンはめまぐるしく変わり、状況を理解するのが難しいときもありますが、脈絡の不明なシーンの連なりは観る者の興味を引きつけ、3人の運命が重なる瞬間のインパクトを絶大します。

さらに時間軸の乱れは重要な意味を持っています。皮肉なまでにもつれる3人の運命の糸はまるで神が操っているかのよう。病が治癒したと同時に妻との愛が消えたことを知るポール、幸せから不幸へと転落したクリスティーナ、前科者のジャックは信仰にめざめた矢先でした。

ささやかな幸せを求めて懸命に生きる彼らに降りかかる厳しい現実。神のいたずらというにはあまりに過酷な運命は、21gの心臓同様、だれの身にも備わるものだと思い至らせます。

苦しく、地味な物語ではありますが、命の“重み”と“尊さ”を感じるために、ぜひ観てほしい作品です。


21グラム Blu-ray


Amazonプライム・ビデオ

カーズ

ピクサーアニメの人気シリーズ第1弾
愛嬌たっぷりの車たちの素朴な生き方が胸に染みる

2006年に公開されたピクサーアニメ第7作『カーズ』では、車たちの世界が描かれました。
公開時は前作『Mr.インクレディブル』でCGアニメにおける最難関、人間の造形に挑んだことで、ピクサーをさらに発展させる次の挑戦課題が注目されるなか、〈なぜ車?〉との思いがありました。
でも、そんな疑念はここに登場する車たちのさまざまな〈走り〉=〈生き方〉を見つめるうちに消えました。
カーマニアやカーレースファンという新規観客層にも、従来のピクサーアニメのファンや、笑いと感動を求める人にも存分に楽しめる作品です。

*****************************

【ストーリー】
真っ赤な車、ライトニング・マックィーンは新人ながらもレーシング・スポーツの最高峰ピストン・カップでチャンピオン候補に名乗りを上げる若き天才レーサー。勝気な性格と天才ゆえの奢りから人気実力ともにトップになることしか眼中にありません。助言をくれる仲間の必要性など微塵も感じず、自分の力だけを頼りに戦ってきましたが、ひょんなことから寂れた田舎町ラジエーター・スプリングスに迷い込み、仲間の大切さを知ります。
一方、ルート66沿いにあるラジエーター・スプリングスはかつて旅の中継点として栄えていましたが、高速道路の開通でその役割を終え、今では地図にも載っていません。町に住む車たちは見捨てられた町で淡々と生活するだけでしたが、マックィーンの登場で変わっていきます。

*****************************

独りよがりの風来坊が田舎町に住む素朴な人々との触れ合いでその高慢な鼻をへし折られて改心します。しかし、風来坊の率直な言動は希望を失っていた人々の心に潤いを与え、やがて両者はかけがえのない存在になる――、というストーリーは人間世界のドラマで何度も語られました。

先を急ぐだけの人生を見直すきっかけ、進歩への警鐘、ストーリーテリングの巧みなピクサーらしい感動的なクライマックスが用意されているものの、本作で心を捉えるのは完璧に車に息を吹き込んだ映像技術でしょう。

フロントガラスが目で、バンパー部分を口にした車たち。子供の落書きみたいな単純明快な顔立ちですが、さまざまな苦労を背負った彼らは、実に多彩な表情を見せ、どっぷり感情移入させられます。

とくに絆を深めた町の車たちとマックィーンとの別れのシーン。人気レーサーとしての活躍を願ってマックィーンを送り出す車たちの寂しげな表情に胸が締めつけられました。

トイ・ストーリー』の生みの親、ジョン・ラセターにとって6年ぶりの監督作(公開時)。映画最大の見どころとなるエキサイティングなカーレースシーンは、車とオモチャが大好きというラセター監督にとっては最高に遊べる舞台。楽しくてたまらないというようなラセターの弾む心が感じられます。

ただし、製作前に「車好きのためだけの映画にしてはいけない」という夫人の助言があったそう。これまでのピクサー作品の創作の原点はみずからの趣味や経験からなのですが、それを独りよがりにならずに描けるところが、ピクサー作品が多くの人に愛される理由なのだと感じました。

生意気なマックィーンにレースや生き方を指南する町のリーダーで伝説のレースカー、ドック・ハドソンの声をいぶし銀のポール・ニューマンが演じているのが何とも粋です!


Amazonプライム・ビデオ

しあわせの隠れ場所

絶望から幸せを見つけた、NFLスターの実話を映画化
人に対する優しさや温かさが心に染みる傑作ヒューマンドラマ

現在、アメフト全米代表としても活躍するNFLの黒人スター選手マイケル・オアーは、家庭環境に恵まれず、10代の頃はホームレス同然の生活をしていたといいます。しかし、そんな彼を“家族”に迎えた白人一家がいました。

テューイ一家との出会いでオアーの絶望的な人生が一変した実話が感動的であることは想像に難くありませんが、本作の出来栄えはその予想を大きく上回るはず。笑いと涙溢れるヒューマンドラマの傑作です。

*****************************

【ストーリー】
物語は10代のマイケルが、彼の不幸な境遇を見かねた友人の父親の懇意で、私立高校に編入するところから始まります。カトリック精神の下、マイケルを受け入れたものの、先生たちはまったく勉強を理解できないマイケルをもてあまし、マイケル自身も学校に馴染めずにいました。マイケルの悲惨な状況はさらに続き、行方不明の父親の自殺が判明、友人宅でも邪魔者扱いされてしまいます。
リー・アン・テューイ(サンドラ・ブロック)は家族と車で帰宅途中、真冬の雨夜にTシャツ、短パン姿で歩くマイケルと出会います。行き場を失い、「体育館で寝る」と言うマイケルを見かねたリー・アンは家に泊めることにします。

*****************************

序盤から孤独と諦観をにじませるマイケルの姿に胸が痛みます。父親を知らず、母親は薬漬け、幼い頃から施設を転々とし、大勢いる兄弟とも生き別れに。貧困層に生まれたマイケルの生い立ちは本当に悲惨なものです。それでも慎ましさを失わないマイケルがまず素晴らしいです。そして、誰も気付かなかったマイケルの深い愛情に心を打たれ、「自分こそが彼に変えられた」と言い切り、彼の後見人となったリー・アン、彼女の決断を潔く受け入れたテューイ家の家族もまた素晴らしい!

監督・脚本は『オールド・ルーキー』のジョン・リー・ハンコック。ユーモアを交えた巧みな人物造形で、観る者の感情移入を誘います。魅力的な家族に扮した俳優たちの好演も光ります。特に、髪をブロンドに染めたサンドラ・ブロックは、良心のままに突き進む聡明で快活なリー・アンに成り切り、2010年、第82回アカデミー賞主演女優賞を受賞しました。

マイケルのサクセスストーリーは“家族”の応援によって生み出されました。人に対する優しさや温かさが素直に心に染み、「自分ならどうするか」と考えずにはいられないでしょう。


しあわせの隠れ場所【Blu-ray】 [ サンドラ・ブロック ]


Amazonプライム・ビデオ

エディット・ピアフ 愛の賛歌

辛い現実を生き抜く勇気と力を与えてくれる
人生賛歌を謳いあげた歌姫の切なくも、まぶしい生涯

『愛の賛歌』『バラ色の人生』などで知られるフランスの伝説的シャンソン歌手、エディット・ピアフ。人々の心を揺さぶる感動的な歌を生み出すためには、かくも多くの痛みを味あわなければならなかったのか。皮肉な運命に翻弄されながらも歌に生き、わずか47年で幕を閉じたピアフの波乱の人生が鮮やかに蘇ります。

*****************************

【ストーリー】
1915年、第一次大戦最中のパリに生まれたエディット。幼少期に母親から粗末な扱いを受け、祖母の営む売春宿に身を寄せます。劣悪な環境での生活、失明の危機や優しい娼婦たちとの涙の別れ、大道芸人の父親と共にサーカス小屋を放浪する日々を経て、街頭で歌って日銭を稼いでいたエディットは、名門クラブのオーナーに見出され、20歳で歌手デビューを果たします。

*****************************

歌手として天性の才能を持つ一方で、両親の愛に恵まれなったピアフ。愛に飢えすぎたことが、歌の世界と悲劇の道を開いたのは、なんとも皮肉です。ピアフは、たった一人で生き抜くために身に付けた勝気さと横暴さで、幾多の逆境を乗り越え、見事歌姫の名声を掴み取ります。

しかし、もっと素直な心で人と絆を築くことができたなら、最愛の恋人の死から自身の死へと向かう悲運を回避できたのでは。現実を直視した素直な歌の世界とは裏腹に、愛を知らないあまりに不器用な生き方で身を滅ぼしていくピアフの姿が切なすぎます。

激動の人生をあますところなく描ききり、複雑なピアフの人間性を見事に浮かび上がらせたオリヴィエ・ダアン監督、そして、ピアフの魂が乗り移ったかのような奇跡の名演を見せ、アカデミー賞主演女優賞に輝いた主演のマリオン・コティヤールが本当に素晴らしいです。

人生の厳しさに思い悩む人々を励ましたピアフの歌のように、本作も辛い現実を生き抜く勇気と力を与えてくれるはず! 2007年製作。


エディット・ピアフ~愛の讃歌~ [Blu-ray]


Amazonプライム・ビデオ

シュレック

醜い怪物シュレックが大人のために語る現代のおとぎ話
思い切り笑って、スカッと爽快! 傑作フルCGアニメ

誰もが子供の頃に読み聞かせられたおとぎ話には人生の教訓がいっぱい。数々のファンタジックなキャラクターが教えてくれた〈善いことと悪いこと〉、〈すべきこととしてはいけないこと〉、それらはすべて簡単なことなのに大人になって忘れている人はいないですか?

2001年に公開されたフルCGアニメ『シュレック』はそんなおとぎ話の伝統を復活させ、偏見と差別がまん延している現代社会に喝を入れます!
とはいえ主人公のシュレックは臭くて醜い、嫌われ者の怪物。彼にとって非現実なおとぎ話はトイレットペーパー代わりにしかならない無用の長物なので、かなりシュールなおとぎ話になりました!

*****************************

【ストーリー】
シュレックは人の骨を粉にしてパンにするという噂がまことしやかに囁かれる緑色の大男。すきあらば、怪物のシュレックを退治しようと試みるうるさい人間たちから離れ、森の沼地のほとりでたったひとりの静かな生活を楽しんでいました。

その一方で、森の中ではおとぎ話のキャラクターが悲惨な目にあっていました。賞金目当てにおとぎ話のキャラクターを売りに来る人間が列をなし、老婆に連れられたドンキーも〈しゃべるロバ〉として売られるところでしたが、偶然出会ったシュレックのおかげで難を逃れます。

命を助けられたドンキーはいつもの陽気なおしゃべりを取り戻し、すっかりシュレックとも友達になった気分でしたが、シュレックにとってははた迷惑なだけ。一夜の宿を頼むドンキーに仕方なく応じるものの、これがとんでもないことに。その夜、沼地は無数の侵入者たちで溢れかえり、シュレックの静かな生活が奪われてしまいます。

侵入者たちの正体はパーフェクトワールドを作ろうと躍起になっているフォークアード卿によって追放されたおとぎ話のキャラクターたち。シュレックは彼らを追い出すためにフォークアード卿に追放をとくよう掛け合いますが、〈ドラゴンの城に囚われているフィオナ姫を連れ戻すこと〉という条件を言い渡されてしまいます。

シュレックは意地悪でずる賢いフォークアード卿に利用されているとも知らずに、ただただ孤独な生活を取り戻すためドラゴン退治の危険な旅へ出かけるのです。

*****************************

ひょんなことからドラゴンの城に囚われた美しいお姫さまを救い出すヒーローを演じるはめになった怪物の冒険を描いたコメディ『シュレック』は、『アンツ』('98年)でフルCG長編アニメーションの製作に乗り出したPDI/ドリームワークスの第2弾。

前作同様、ちょっとせつない人間社会の縮図をパロディ化して描くことにフルCGアニメの活路を見出したのは大成功。CGの役目がリアリティの構築なら物語にも現代社会に通じるメッセージを込めています。

そのため、おとぎ話やディズニー映画のパロディが次々に生まれたというのが皮肉ですが、厳しい現実や逆境を鮮やかに乗り越えるCGキャラクターたちの熱演は深い感動を呼び、スマッシュヒットを記録。2001年に新設されたアカデミー賞長編アニメ映画賞の最初の受賞作となりました。

顔の表情を豊かにしたフェイシャルアニメーションシステム、ドラゴンの城のアクションシーンを高めたボリュームレンダリングテクニック、心安らぐ自然界の背景を作り上げたシェイダーシステムなど、ヒットの勝因には楽しいストーリーを演じるキャラクターたちの魅力を引き出したCGアニメーション技術の進歩も見逃せません。それはシュレックとフィオナ姫のロマンスシーンで最高潮に達し、表面を内側から変形させる新プログラム、シェイパーシステムにより、ふたりの屈折した心情を顔の表情だけで表現し、人間さながらの名演を引き出しています。

さて、物語はパロディの連続で思いきり笑わせた後に、いきなり現代社会が抱える問題を突きつけます。シュレックがなぜ孤独を好むのか? フィオナ姫がなぜ幽閉されていたのか? 目に見えるものしか信じない、いや信じられなくなったのは情報化社会の弊害であり、間違った情報に流されないために必要な処世術かもしれませんが、それではあまりに悲しすぎるとシュレックは教えてくれます。

21世紀のおとぎ話はちょっとほろ苦いですが、結末はやっぱりハッピーエンド。「幸せはすべての人に降ってくる」と謳い上げる、感動的なクライマックスももちろん『シュレック』流。そのユニークさは期待を裏切らない素晴らしい仕上がりです。

シュレックを『オースティン・パワーズ』のマイク・マイヤーズ、ヒロインのフィオナ姫をキャメロン・ディアスシュレックの相棒ロバのドンキーをエディ・マーフィ、そして悪役フォークアード卿の声をジョン・リスゴーが演じており、型破りなキャラクターに息を吹き込んでいます。


シュレック【Blu-ray】 [ (アニメーション) ]


Amazonプライム・ビデオ